53.ユニオンルール

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 アッという間に倒された奴らの山ができていた。  あまりの嵐の強さに、思わずポカンとしてしまった私だったけれど……ボケっとしている場合でもない。  今さらもう遅いけれど、でも、彼らは私の母親の恩人でもあるわけで……。できる限りこれ以上は争わずに済ませたかった。  とにかく今私にできることは、早いところエルか京介を探し出してこの騒動をおさめなければ……と、一人冷や汗を滲ませた時だった。  盛り上がっていた輪の中心に向かって、ツカツカと忍び寄った『黒い影』――。 『黒い影』に気付いた者の何人かは、慌てたように血相を変えてササッと道を開けていた。 「うるぁッッ‼」 「ンぐっ、くそ……ッッ!」 「おら、とっととかかって来いよ! まさかもう終わりってこたぁねぇよな?」  輪の中心で吠える嵐を一瞥した、『黒い影』。  人だかりでよく見えなかったけれど、背を伸ばしてなんとかその『黒い影』の正体をはっきりと確認した瞬間、大きく目を見開いた。 「危ない、嵐ッッ‼」  ――私が叫んだと同時に、ブンッッッと豪速で飛んだスミノフアイスの赤瓶。 「……‼」  ――背後から、自分目掛けて飛んできたそのボトルに気付いた嵐。  嵐は近くのテーブルに乗っていたビール瓶を鷲掴みにすると、ブンッと一振りして目の前に飛んできた赤瓶を叩き割る。  ガシャアンッッと、けたたましい音とともに派手に飛び散るガラスの破片と、ボトルの中の液体。 「っぶね……っと⁉︎」  なんとかスミノフアイスの赤瓶の攻撃を防いだのも束の間、追撃を仕掛けるように嵐の元へ突っ込んできた『黒い影』から怒涛のごとく繰り出されるアッパー、フックからの回し蹴り。  慌てて仰け反り、腕でガードしながら辛うじて避けた嵐だったが、相次ぐ『黒い影』からの猛撃に、嵐は唇を噛み締めるように一歩、また一歩と後退している。  そのまま壁際へと追い詰められた嵐は、相手の拳を右手で、相手の蹴りには左手を重ねてブロックし、ようやくなんとかその場で踏みとどまった。 「なんだてめぇ……ちったぁ骨のある奴が出てきたじゃねぇか。どこの所属だ?」  次なる攻撃に備えながら、訝しげに相手の顔を見やった嵐が問う。……っていうか、所属を聞けばいいってモンじゃねぇ。
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