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52.訓告
再び目の前に広がった、黒と青の世界――。
ホールには地鳴りがするような音楽が流れ、目の前はBLACK UNIONのメンバーと思しき沢山の黒尽くめ集団で溢れ返っている。
昨晩とは違い、すでにホールは人だらけでマスターの姿さえ見えなかった。
むせ返るような血の匂いと、アルコールの匂い、獣じみた男の熱気に胸やけしそうになる。
とにもかくにも、早いところエルか京介……もしくは話がわかりそうな湊さんあたりを探さなければと、素早く視線を這わせ、人の波をかき分けながら歩きはじめる私。
嵐は自然と守るように私の腰を引き、あたりを警戒しながら歩いていたのだけれど。
「――おいソコの赤い頭」
「あ?」
「お前、見ねぇ顔だな。ドコの所属だよ?」
ソファーの背もたれの部分に腰をかけ、ひじ掛けの部分に片足(しかも土足だ)をのっけて酒をかっくらう、特攻服姿の青メッシュヘアー男が嵐の肩を掴む。
ギラリとした血生臭い眼差しが嵐を貫いたが、嵐は全く怯むことなく、さも迷惑そうな顔をしてその手を払いのけた。
「ドコって……よくわからんが『椋島』だ」
「『ムクジマ』? ンな名前のチームあったっけか……メンバーが増えすぎてわかんねぇな……」
青メッシュの男は少し酔っている様子。しばしジロジロと訝しむように嵐の身なりを見ていたが……やがて匙を投げたのか、今度はチラと私の方を見た。
「まぁいい。それよりもおめぇ、イイ女連れてンじゃねぇか」
「……あ?」
にやりと笑ったその青メッシュ男は、ソファーの背もたれからひらりと飛び降りると、ハイネケンのボトルを呷りながらこちらへやってきて、私の顎を掴みあげた。
「へーぇ、かわいいねぇ……。君さぁ、モデルのナナコに似てるってよく言われない?」
「酒くさ! っつうか、離せよ!」
私の顔や足、全身を舐め回すように見てくるソイツ。っていうか……アルコールの匂いをプンプンさせながら、顔を近づけてくるモンだから、酒くせぇったらありゃしねぇ。
「おいテメェ。俺の女に手ェ出すんじゃねぇぞボケ、あ?」
すぐさま嵐が割り込み、男の手を掴みあげてくれた。
俺の女……ではないけれど、まぁそこは良しとして、早くも険悪な空気が二人の間に漂い、あまり騒ぎを起こしたくないっていうのに、ちょっとヤバイ雰囲気かもしれない。
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