佐野氏の足跡を辿る

4/4
前へ
/34ページ
次へ
 私はGoogleマップを開いて、井の頭公園までの道筋を確認した。さして遠くはないが、かといってすぐ近くでもない。都会の人々の足並みに躓きそうになりつつ、私は歩を進めた。  暫く真っ直ぐに歩いていると、木々に覆われた坂道が現れた。井の頭公園への道を示した標識もある。近くには三鷹の森ジブリ美術館もあるようだが、確かにその世界を彷彿とさせた。  坂道に沿って、お洒落な店が軒を連ねていた。小心者の私は、それを眺めるだけで通り過ぎていく。元々店に入るつもりはなかったのだ。ただでさえ往復で1万近くかかるのに、他所で金を使えるほどの余裕はない。  それにしても、空気が美味しかった。怠け者の私は、よっぽどの事がなければ、朝散歩をするなどという事はしない。  だが、空気が美味しく感じるのは、他の理由もあるだろう。この町に、私の憧れの人が住んでいる。そしてそこに今、私がいる。同じ空気を吸っているかもしれないのだ。  我ながら、気持ちの悪いファンである。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加