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だったら、今日も何もないんじゃないのだろうか。
思わず期待して、逆に冷静になると、すべてが見通せた。これは、ただの欺瞞じゃあないのか。何もしないなんてありえないという結論に達する。
どう足掻いても、僕に苦痛がないのはない。
苦しむべきで、悲しむべき。
今までゆったりしていたような気もするけど、これからのための休憩。
彼は最初に湯を渡してきて、僕はうなだれる。
服は置いてあるものを着たらいいと教えられて、努力して頷く。
のろのろと洗面台に向かい、タオルと共に備え付けてあるガウンにどきっとする。ゆっくりと、手に取る。大きな布みたいで、でもちゃんと手が出せる。
彼はやつらみたいに屈辱的なプレイはしないだろうと思い、なんとか割り切る。
ご飯ももらえたし、休ませてくれた。
涙が何故か滲む。
それは、感情が崩れていくような感覚。大きな声で泣きたくなった。
ひたすら我慢して、服を脱ぐ。そして、シップが貼られていることを思い出した。剥がそうと指を伸ばし、貼られた瞬間を思い出す。シップを撫でると、とても嫌になった。剥がすのが嫌で、このままにしておきたい願望。包帯も絆創膏も大切なものみたいに感じた心。だけど、剥がした。一気に、すべてを取り外した。
いっそ初めからなかったらいいのに。
すうすうと肌に風が通る。外気に触れた皮膚に変な感じがする。シップを貼るのは久しぶりだからと何回も考える。だから体を手早く洗い、ガウンを羽織る。
下着は渡されなかった。このままがいいのだろう。
「早いね、もしかして風呂嫌い?」
部屋に戻ると、彼は僕を迎える。
否定を仕草で表わすと、しとしとと髪から雫が落ちていく。すうっと布に染み込んだり、ぽたっと床に零れたりする。
彼を見つめる。
「……よくさ」
すうっと流れる。冷たい雫が、肌を伝っていく。
「たまらない表情、するよね」
それは、どこか震えた声で。
やつらもよく喉を震わせていたと回想したりして。感知が警報を鳴らす。肌が泡立ち、彼が僕の手を取る。
……なんだ、やっぱりやつらなんだ。
ふと漏れた呟きは表に出ずに、吐息となる。
彼は無言で、人形になった僕をベッドに眠らせる。
そして、額に唇を落とした。
とうとう、くる。
意識しないのに、体は硬直していく。指先が重い。凍ったみたいに、筋がかたまる。
くる。
やっぱ彼もそうする。
抵抗はしない。沈着な物分かりよさが、事態を了承する。
彼は何もしない。それは愚妹な浮薄。そうだ。何もしないくせに、僕といるなんて。だけど、胸がきりきりする。
嫌なのに、消えてしまいたいのに。
内面は逆らいたくても、躾けられた肉体は微動だにしない。
どうして、僕は。どうして僕が。
しかし。
彼は「おやすみ」と言った。
ぱさぱさと僕の髪を擦る。感触を確かめるように、長さを楽しむように触る。そうして部屋の明かりを消し、バスルームへ行ってしまう。
僕は体を起こす。彼の言葉を反芻させて、瞬きをする。
……シャワーを浴びてからするつもりなのだろうか。
ベッドに横になり、彼を待つ。
だけど彼は出てきても、ソファに寝ころんでしまう。待っていても、時間は過ぎていくだけ。
何もしないの?
僕は何もしなくてもいいの?
すうすうとした寝息はない。きっと彼は起きている。その反応に窮する。
彼はやっぱり何もしない?
今日は、今日も、ぐずぐずできるの?
ゆったりと足をシーツの中に遊ばせる。柔らかな布が体温を纏い暖まっていく。ぬくぬくしていると、暑さと湿気で深く眠れるんじゃないかなんて、楽観できる。
目蓋を下ろす。
いつも眠りは浅く、熟睡なんてしたことはないけれど。
彼は僕を抱かない。嫌なことをしない。
何故かは理解できなくても、彼といると重々しさが静まる。憂鬱が蒸発していく。
何もなくて、張り詰める必要がなくて。
……ああ、くつろぐってこれだったんだ。
今まで、ずっと嫌だった。
暗闇の中、過去を回顧する。
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