2人が本棚に入れています
本棚に追加
四日目
爪を剥けと言われた。
目の前には、少年がいる。鎖に吊されて、肌を見せて、無防備な姿をさらしている。少年が僕に哀願する。そうすると、やつらが嬉しそうに目を歪めて、けたけた笑う。
涙が目尻から落ちる。
少年が繰り返して、命乞いをしていた。
助けて、助けて、助けて。
十秒以内に剥かないと、こいつの心臓に刺すと言われる。剥いたら、他の場所にしてやる。
言われたから、実行する。
いち、
に、
油汗が浮かぶ。痛みに対する拒否反応が決意を鈍らせる。
さん、
それでも、やらないわけにはいかない。
よん、
ご、
ろく、
指が震える。遅くなればなるほど苦痛が増していく。
なな
神経が阿鼻叫喚に暴れまわり、やめてくれと懇願する。けれど、僕はとめない。
歯を噛み締めて、剥がそう踏張る。べりっとは剥がれないで、途中でとまる。そうして……
はち、
叫び声が響いた。のた打ちまわると、喉が切れて血の味がする。ああああとか、間にううううとかの呻きがする。頭を、床に打ち付ける。そうして、喘ぎとか叫びとかが自分の口から出ていると気付く。
涎が頬にべとつく。
それで、やつらが満足そうににやにやする空気が伝わった。
そして、ばさっと血が飛んで、やりとげたことに息をつく。悲鳴があがるけれど、最悪には到らない証拠。少年の腕にナイフが生えて、命を繋ぎとめたと一安心する。
痛みに耐えながら、少年と目を合わせる。涙に滲む視界で、少年が赤く染まっていた。
いち、
に、
だけど、終わらない。
さん、
またカウントが始まる。
耳を疑った、信じたくない事実。幻聴ではない声を聞き取り、やつらを見上げる。
やつらの唇は蠢いていて、音を発していて。
そうして、終幕は来ないのだと思い知る。
爪を剥いで。少年の足にナイフが突き刺さって。
いち、
に、
がんがんとした痛みが。鮮烈で狂いそうな感覚が、脳を支配していく。
いち、
に、
さん、
もう嫌だ。もう無理だから、許してよ。許して、頑張るから。
言葉はどこまでも無力で、カウントだけが進んでいく。
いち、に、さん、し、ご。
左腕が、右足が指が、爪先が、腹が。
いち、に、さん、し、ご、ろく、なな。
剥くところがなくなる。それは、解放が来たことを告げる合図。永遠のような苦痛は増えることなく、嬉しさに喚いてしまう。
そして。
血液が飛び散る。
少年の首がかくんと垂れた。
ぴちゃぴちゃと床に広がる。収めてなくてはいけないものが、飛び出していく。
待って、まだ、もう、まだ、待って、待って待って待って。
揺さ振っても、呼び掛けても流れていく。手の平は無力で、押さえても閉じようとしても、傷口は塞がらない。
ここにはもうだれもいない。
そうして、指を見る。剥かなかったから、殺された。
最初のコメントを投稿しよう!