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何かしようなんて気持ちにはならない。ただじっと体を休めることが、彼も喜ぶ気がする。それでよかったのか、彼も視線で邪魔をしてくることもない。
それでも黙っていると、ぷつぷつと疑問が浮かぶ。
なんで僕はここにいるのだろう。
やつらはどこにいったのだろう。
ここで、何をしろというんだろう。
ここは地下室よりも広くて、のびのびとする。くらぐらとカーテンで閉められていても、窓がある。だからか、息はもう詰まらない。
どうしてこんな風にじっとできるのかな、と胸の奥で考えた。目を閉じて、開く。
落ち着いていると感じる。どこかに恐れを置いてきた気分。
天井を眺めて、不思議な自分を味わっていた。
なのに彼は、窮屈でごめんなと謝る。僕はゆっくりと首を振る。そうすると、彼は微笑んでくれた。
ごめんなさいと言おうかと思った。でも、彼は受け取らない気がして。
だから、教えてもらったばかりの使う方をする。ありがとう。
彼はごめんなといい、それから自嘲的に言った。ありがとう。
夜、彼は僕に食事を恵んでくれた。お湯を入れるだけの中華粥。その上、ココアを入れてくれる。
そこまでされると、戸惑うしか、できない。
どうして僕にこんなことをしてくれるのだろう。
久々の餌でも排泄物でもない暖かな食事。目に染みるし、頬が熱くなってくる。
口に入れていると、汗が滲んだ。
胃が動いているのが解ると、再度不思議になる。どうして、ここまでしてくれるのだろう。彼は僕が食べている様子を、また掴めない目をして見ている。その瞳は傷つける意志に欠けている。いい加減学習したので、怯えることはしない。
どうしてか、不意に泣きだしたくなる。けれど、怖いからでもなかった。
僕の判断は正解だったようだ。彼はどこかくつろぐような仕草を増す。
彼はいったい何者なんだろう。
同じ考えをいったりきたりする。だけど、問い掛けないから、解決しない。何者でもいい、じっとできて震えずに済むから。
彼の空気に半ば緊張をといてしまう。それがいけなかった。
うつらうつらとして、びくっと目覚めた。
狼狽えて、愕然とする。いつのまにか視界は、地下室へと変わっていた。目蓋を擦る。室内に変化はない、あるはずがない。
逃げ出していた僕は、それが終わり帰ってきたのだろうか。だとしたら、彼は?
やつらが、見つけたぞと声をあげる。僕は彼の姿を探す。だけど金色の髪はなかった。
壁は見飽きた灰色のコンクリート。どろどろと汗が流れる。
そして、頭に反響する汚い声色。逃げ出しやがって。
僕は息を飲み込む。それしかできない。体が動かないから、できない。
怖い。逃げ出したい。
何かは始まってしまった。ずっと待っていたくせに、消えてしまいたくなる矛盾。
なのに体は震えるばかりでいうことを聞かなくて。逃げられなくて。
やつらが近づいてくる。――逃げられると思うなよ。体を凍らせてしまうから、目を閉じることもできない。
僕はすべてを禁止されている。
いやだ。
やだ、やだ、やだ。
やつらが僕の腕を掴む。反射で僕は振り払ってしまう。意味の解らない叫びをあげながら。
どうして僕はこんな目にあわなくちゃならないの。
どうして。
痛いのは嫌だ。怖いのは嫌だ。
やめて、やめて、やめて、やめて、やめて。
やつらは聞かない。拒絶なんかやつらには届かない。
僕を引っ張りあげる。僕はしでかしてしまったことの重大さに気付いてしまう。
やつらを拒んだ。煩わせた。
どうしよう。
ごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
ぱしん。
やつらが僕の頬を叩いた。何か言っていた。
「大丈夫だよ」
大丈夫? 何を言っているのだろう。
大丈夫、だいじょう――
目を開くと彼がいた。
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