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やつらの姿はなくて。あの場所でもなくて。頬がぴりぴりして、熱くなって、涙が目尻から零れて。それから、彼に連れてこられたモーテルだと気付いた。
瞬きをする。遅れて気付くのは、幻覚を見ていたこと。
彼がいる。
彼は僕に何かを言っていた。聞こえないけれど、頷く。
彼は軽く息をついた。
「怖い夢を見ていたの」
怖い夢。
僕は首を振った。あれは夢なんかじゃない。現実だった。いつでも僕のそばにあったもので。どこまでも僕についてくるもので。
彼が僕の体を摩擦する。大丈夫だと繰り返しながら。
ぐるぅりと僕は部屋を見回す。やつらが、影に隙間に隠れている気がしてならなくて。そうしないと落ち着かなくて。
早く見つけないと。そう思った。
早く見つけないと、やつらはそこから膨張して、この部屋すべてを埋め尽くす。
しかしやつらはいない。
嘘。そんなはずはない。やつらはどこかに隠れている。
彼は大丈夫だと繰り返した。
「あれは悪夢だったんだ」
彼は言った。
悪夢。
僕は呟いた。本当にそうだったのだろうか。
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