0人が本棚に入れています
本棚に追加
けたたましいピーーッ!の音
夢を見た。雲の上に降り立つというものだ。
目の前には、雲でできた城が佇んでいる。
城の中は誰もおらず、ただひたすらに広い。
しかし、食事は食堂らしき場所に行き、食べたいものを思い浮かべれば出てくる。
味も良い。
ベッドはふかふかだ。
しばらくの間、城の中で暮らした。
退屈だったが、やりたいこともなかったし、ぐるぐると城の中を毎日巡回した。やがて飽きて、色んな場所で横になってみたりもしたが、それにもすぐ飽きた。
幸い、僕はロングスリーパーだし、眠るのはきらいじゃない。いくらでも眠ることができる。それにここは、明るい時間が短い。暗くなると自然、眠くなるので、暇な時間の方が短かった。
僕は城を出て、雲の上を歩いた。
雲はふわふわとしていて、足が沈みそうになるたび、どきりとする。
しゃがみこんで、雲をちぎっては固める。ベッドより少し大きいぐらいのサイズの雲を作る。
手を離すとふわふわと浮いて、手を離れて行きそうになるので、飛び乗った。
雲は、ゆったりと流れ始める。
自分で作ったベッドは、城のものよりもふかふかで、ひんやりとしていた。
日差しを直に感じるからか、不思議と暖かい。
動いたからか、空気のせいか、とても眠い。そのまま眠りにつくことにする。
起きたら、空いた部分の雲を使って日よけを作ろう。
うとうとと、ふかふかの雲に顔を埋めて舟を漕ぐ。
次に目覚めると、空が明るみ始めた頃だった。
まだ覚醒には浅く、もう一度目を閉じる。目を閉じながら、お腹が空いたと思った。
冷たい雲を抱きしめながら、再び眠りにつく。
二度寝から瞼を開けると、すっかり日は真上にあった。
まぶしいので、また目を閉じる。が、さすがにもう眠れそうにはなかった。それ以上に空腹感を感じて、両手をついて身体を起こす。そして、辺りを見渡す。城の姿はなかった。
さながら、北極に浮かぶ氷の孤島の一つにいるみたいだ。青の空白と、点在する薄く小さな雲の群れと共に、風に流されている。
雲を掴んで、空白を覗き込む。遙か下の方に山や街のようなものが見える。
落ちたらどうなるのだろうと考え、そういえばこれは夢だったなと思い出す。
夢の中でも眠り放題とは、本当に寝ることしかできないのだな、僕は。
落ち込みそうになりながらも、それよりもと空腹感を思い出した。
食べたいものを考えてみたけど、出てくる気配はない。城の食堂を手放したのは、惜しいことだったか。
またいつか、城に出会えることを願っておこう。
どうせ夢の中だ。お腹が空いたからといって、どうなることもないだろう。
もう一度横になる。横になったまま、ぼんやりと雲の端を掴み、おもむろに口に運ぶ。
食べたことのない味がした。
「あ、うまい」
予想外の味だった。
空に手を伸ばすと、隣の雲に手が届いた。
手に届くものをかき集めて、固めてみる。パンの形を作ってかぶりつくと、今度はパンの味がした。
思いつくまま、ケーキやクッキーを作ればその味になった。
「便利だな」
呟きながら、非常食を作る。
これは意外にもいい暇つぶしになった。
城よりも狭い雲の上は、城の中より自由で、退屈しない。
もうずっとここにいよう。
満足した僕はまた目を閉じる。
眠りの闇に落ちながら、理科の授業を思い出した。先生が言っていたことを。ああ、そういえば雲の上って本当は寒いところなんだっけ。
そう思った途端、暖かく感じていた空気が冷たく感じ始める。
意識の深く、遠くで聞き覚えのある高い音が響いた。
最初のコメントを投稿しよう!