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高尚なる塀の中の遊び
「あー」
ペンライトの優しくない黄色が、俺の眼球の上を滑る。そしてその光の筋は、唇に重なった。刑務官の男は、声を出しながら、俺の顎を掴む。適度な力強さ。何かに触れられていると、落ち着く。だから俺は弛緩して、口を広げた。
「あーーー」
声を出して喉の奥を広げる。冷たい空気が喉奥を通った。ぴか、ぴか。黄色い眩しさに何度か瞬きをして応じる。顎を持ち上げる手に、力が入ったのを俺は見逃さなかった。
「あと何分」
俺は着ていたズボンを下ろす。下着ごと、丸ごと。刑務官は少し猫背になりながら、俺の背中に覆い被さる。
「見回りがあるから、あと4分」
「楽ショーだね。あんた、早漏だから」
肉が、中に入ってくる。それは、俺のことを満足させはしないけれど、喘いでやる。こうすると、男は喜ぶと知っているから。刑務官の男は、最初は遠慮がちに腰を埋めていたけど、次第に無遠慮な自己中心的な動きに変わってきた。こいつ、見かけによらずエロ猿だからな。家で1日何回シコってんだろ。2回とか、3回? 中坊かよ。まー、エロに振り切らないと、こんなクソみたいな仕事やってらんないのかな。それはそれで、淋しい男だ。
胸元に回る腕が、俺のことを離さないように抱きしめる。荒い息を繰り返しながら、刑務官の男は俺の腰にぐりぐりと余韻を押し付けてくる。
ギギッ。
「う……あ」
刑務官の男が施錠したはずの鉄製の扉が開くのを、顔面蒼白な様子で見ていた。
「中西。ついてこい」
「あちゃー」
俺の声だけが倉庫室に落ちた。
この刑務所の1番のボスである刑務官長官の寺本が俺をしっかりと見据えてから言い捨てる。俺の桃尻丸見えだ。くっそ。寺本に見せるのは少々惜しかったな。渋々下着とズボンを着用する。
「……はい」
俺と戯れていた刑務官ーー名前は中西だっけ。よく、覚えてない。中西が、表情の抜け落ちた顔で寺本の後ろをついていく。俺も一緒に外に出た。倉庫室の前の廊下で、寺本が俺のことを待っていたかのように両腕を組んでいた。
「仁王坂。おまえは、8日間だ。おい、連れてけ」
うげ。これは辛いかも。俺は別の刑務官に連れられて、隣の棟にやってきた。複数ある部屋のうちの1つに通される。トイレと、ベッドがあるだけの部屋。閉められた扉には、食事のトレーが入るだけの大きさの小さい扉がついている。窓はない。天井近くに張り付いている排気口だけが、俺の生命線だ。
「えーと、俺は1回シコるのに、15分かかるから、100回くらいやってれば8日なんてすぐ終わるよな」
ははっ、て笑ってみる。けど、結構心は痛い。この独房が、1番嫌いだ。独りぼっちは淋しい、淋しい。前回独房に入ったときは耐えられなくて4日目に発狂して、精神科を受診させられたっけ。今回は、大丈夫かな。まあ、なんとかなるか。俺は瞳を閉じてベッドの前に体育座りをして座り込んだ。隣の部屋のやつなのかわかんないけど、何かを殴るような音が聞こえてきたから、俺は孤独を感じずに済んだ。ああ、よかった。俺はひとりじゃない。だれかが、ちかくにいる。
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