小説を読んでいる時って……

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小説を読んでいる時って……

 小説を読んでいる時って、主人公の考えに共感したり、わたしだったらこんな事は出来ないなあ、と考えたり。文字を追うのを中断して、空想の世界に(ひた)ってしまう事が珍しくない。  学校の図書室で本を読んでいると、空想の世界に浸るうちに、いつしか正面の音楽室を眺めている事に気付く。窓の向こうでは、毬輪ひなたさんがトランペットに唇をあてている。やっぱり美人だなあ。つい見惚(みと)れてしまうなあ。トランペットは高音楽器だから一番目立つ。向こうの校舎から高い音が聞こえて来ると、条件反射的に音楽室に目をやってしまうんだ。今日はライト・グリーンのワンピースか。素敵だな。  昨日の放課後は、吹奏楽部の練習はなかったらしく、管楽器の音は聞こえて来なかった。ただ、しばらくするとピアノの音が鳴り始めた。見ると、隣のクラスのほんわかしたお嬢さんがピアノを弾いている。たぶんショパンの革命だか英雄なんとか、っていう曲だったと思う。へえ、あの人ピアノ上手いんだ。  演奏が終わると、パチパチパチ、と手を叩く人影が目に入った。うわっ、M2号じゃん。  こんなに距離があるのにM2号の姿を見ると背筋がぞおっとしちゃうんだよなあ。あれ? M2号もピアノを弾くのか? おいおい、ちょっと待て。ショパンのあとで『ねこふんじゃった』を弾くなよ。ほんわかお嬢さんとは全然レベルが違うじゃないか。  と、まあ、昨日はそんな風だったのだけど、今日は素敵な毬輪さんのお姿を見られるから。毬輪さんの事を見てるだけで幸せな気分になるんだよね。  でもそんな事を口にしては駄目。小学生の時だよ、あの女の人、綺麗だねえ、なんてちょっと言っただけで、うわあ、あんたってレズなの、とMにからかわれたんだよね。それ以来、ずうっと、わたしはクラスのみんなから、レズ子、レズ子と言われる羽目になったんだから。  ある時、クラスの女の子のマフラーが見当たらなくなった。後に分かったんだけど、ただ単に置き忘れただけ。けど、みんなで探している時、誰かが、女もんがなくなったんならレズ子の仕業じゃねえの、なんてふざけて言い出した。そしたら他の子も調子に乗って、そっか、レズ子か、などと言い出して……。  だから、この学校では同じ失敗をしてはいけない。毬輪さんの方も、あんまり繁々と見てはいけない。つい、見惚れてしまうから気を付けなきゃ。  わたしは読書を続けます。
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