第一場 月光奏鳴曲

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「おっ……美味しいです……とても」  藍子は食べながら涙が止まらなくなった。泣きじやくりながらも料理を口に運ぶ手が止められない。 「新鮮な反応だなぁ。洋食は初めてかい」  鄭先生は藍子の食べる様子を見て目を細めた。 「はいっ」 「ゆっくり食べなさい、胃袋がびっくりするといけないから。これはオムレツライスというーー君達も食べますか」  隣のテーブルに掛け、好奇心丸出しで藍子を観察していた女の子二人にも、鄭先生はオムレツライスを持ってきた。  二人は大喜びで手を叩いたが、ミミは慌てて、 「こんな時間に食べたら太るじゃないの。身体が重くちゃ踊れなくないわ」  とそっぽを向いた。 「明日からうんと稽古すればいいさ」  カウンターに腰掛け、洋酒を傾けていた深水が笑った。 「鄭先生、僕の分は?女の子にばかり甘いんだから」  鄭先生は呆れ笑いで 「そう言う君は店の酒を勝手にあけてるじゃないですか」  と答えた。 「稽古の時は鬼か悪魔の癖に」「君には言われたくないです」  鄭先生は前掛けを外すとカウンターに腰掛け、一緒に酒を酌み交わし始めた。
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