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「おっ……美味しいです……とても」
藍子は食べながら涙が止まらなくなった。泣きじやくりながらも料理を口に運ぶ手が止められない。
「新鮮な反応だなぁ。洋食は初めてかい」
鄭先生は藍子の食べる様子を見て目を細めた。
「はいっ」
「ゆっくり食べなさい、胃袋がびっくりするといけないから。これはオムレツライスというーー君達も食べますか」
隣のテーブルに掛け、好奇心丸出しで藍子を観察していた女の子二人にも、鄭先生はオムレツライスを持ってきた。
二人は大喜びで手を叩いたが、ミミは慌てて、
「こんな時間に食べたら太るじゃないの。身体が重くちゃ踊れなくないわ」
とそっぽを向いた。
「明日からうんと稽古すればいいさ」
カウンターに腰掛け、洋酒を傾けていた深水が笑った。
「鄭先生、僕の分は?女の子にばかり甘いんだから」
鄭先生は呆れ笑いで
「そう言う君は店の酒を勝手にあけてるじゃないですか」
と答えた。
「稽古の時は鬼か悪魔の癖に」「君には言われたくないです」
鄭先生は前掛けを外すとカウンターに腰掛け、一緒に酒を酌み交わし始めた。
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