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寝そべって夜空を仰ぎ見る。
まるで天を突くような浅草十二階よりもさらに遥か遠くの高みに煌々と月が輝いていて、あれはどれだけ遠い場所にあるのかと改めて思う。
単衣の着物の背中と袴越しに真鍮のベンチがじわりと冷たく痛い。姿勢を直したいのは山々だが、心身とも衰弱し切っていて手足どころか指の一本も動かせそうにない。
四半世紀にわすかに満たない、長かったのか短かったのかよくわからないこれまでの人生で飢えた体験など数え切れないほどあるが、その中でも最悪級の、初めての感覚だ。
桜の季節も過ぎてもうすぐ初夏だというのに、夜から朝方にかけて真冬のように冷え込む日もまだある。きっと明日の朝には自分の魂はあの月と同じところに呼ばれているだろう、と藍子は考えた。
大正浪漫華やかなりし帝都の行楽と歓楽の聖地、浅草六区にほど近い浅草公園はひょうたん池のほとりーー流行歌や恋の駆け引きの悲喜こもごもも、ここまで来れば風に乗って運ばれてくる一塊の雰囲気に過ぎない。
明日の朝、巡回の巡査か朝帰りの誰かが自分の死体を見つけて騒動になるか新聞に載るか。故郷では最後まで恥晒しの厄介者と罵られるか。
ーーもういい、疲れた。
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