歓迎会

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

歓迎会

「皆さん、入学おめでとう。貴方達は類い希なる才能に恵まれた存在です。このアカデミーでより切磋琢磨し、ダンジョンで活躍されている先輩方に並ぶハンターとなることを願っています」  校長先生と思わしき年長の老人が入学式の挨拶をしているのを、話半分に聞きながら早く寮に行きたがる生徒達はソワソワしていた。  そんな中に話を全く聞いていない生徒がいた。少年は余りの緊張で朝まで一睡も出来ず、立ったまま寝てしまっていた。  幸い身長差で周りには目立たずにいるが、それでも周囲の生徒達には船を漕ぐ姿が映り、クスクスと笑われていた。  話が終わり、生徒達が先頭から順次寮に案内されるなか、未だに眠りこける少年はついに人波から取り残されてしまう。 「起きなさい。彼方が寮に来ないと歓迎会が始められないわ」  声をかけられたことで、漸く少年が目を覚ます。 「ふえ?」 「着いてきなさい。彼方はバイヤー寮で、これからは私の後輩になるのよ」  返事も聞かずにスタスタと歩きだした先輩に、慌てて着いていく少年。先を行く先輩の揺れる長髪からは良い香りが漂い少年の鼻をくすぐっていた。 「先輩、美味しそうな匂いですね」  少年の言葉に反応したのか、急に立ち止まり振り替える。少年は顔をあげて先輩と目を合わす。  先輩は笑顔に見えるが、周囲の空気がやけに重く感じられた。 「君は最年少でこのアカデミーに入った様だから、知識に乏しいバイヤーに組み込まれたのでしょうけれど、次私に美味しそうと言ったのら五体満足でこのアカデミーから出られると思わないことね」 「あ、はい。すみませんでした。とても良い香りの香水を使っているんですね」 「よろしい。異性に対する言動を今後は注意しなさい。美味しそうな匂いは食事に対して使う言葉ですが、異性に使った場合は性行為を促す隠語になると覚えておきなさい」 「だからじいちゃん、出会う女性達に美味しそうじゃわいって言っていたんだ」 「変態の色魔に育てられたようね。恋愛は禁止されていないけれど、不純異性行為は即退学だから肝に命じておきなさい」 「はい!」  少年は先輩に対して絶対に逆らってはいけないと姿勢を正して返事をした。おなごのヒステリーは可愛いもんじゃが、有無を言わせぬ態度を取るおなごに逆らえば命はないぞと、じいちゃんも言っていた。  寮の食堂に案内された少年は、色取り取りの料理に目を奪われた。田舎暮らしで木の実や野生動物を使った料理しか見ことがない少年には、色彩豊かで整った形とバイキング形式で並べられた大量の料理は生まれて初めての経験だった。 「寮の生徒が全員揃いました。これより歓迎会を行ないます。皆さん手にグラスを持ってください」  先輩が少年に黄色い液体の入ったグラスを渡してきた。匂い的に林檎だと思った。 「我が寮の生徒から新たなハンターが誕生する事を願います。ようこそバイヤー寮へ、乾杯」 「「「「「乾杯!」」」」」  少年はグラスを傾け口に含むと、予想通りに林檎の味がした。仄かに炭酸が入っていたのか、喉を刺激する。旨い。  田舎では炭酸が手に入りにくいから滅多に味わえないのに、寮では多分全ての飲み物に炭酸が入れられているのだろう。流石都会。  料理にも香辛料がふんだんに使われており、食べた時に舌へと伝わる濃厚さ、そして鼻孔から抜けるスパイスの香りの強さ。  会話を楽しみながら食べている他の生徒には目もくれず、ひたすら料理に手を付け貪る少年。それを遠目で眺めていた先輩は次第に驚愕の顔になる。  少年が食べている量が桁違いに異常だった。食べ盛りの男性児童が食べる量は精々一キロ。しかし、少年が黙々と未だに食べ続けている現状は下手をすれば十キロに及ぶ。  大食いだとて、腹に収まりきらない分量の筈が少しもお腹周りに変化がない。胃袋が異次元空間に繋がっているのかと疑う程に。 「君、箸を休めて一度他の生徒と話をしなさい」 「ふあい?」 「食べ終えてから返事をなさい。君だけで全ての料理を食べきる気? 並べられた料理は他の生徒だって食べるのよ」 「ごくん、そうだったんですか。一つの料理が空っぽになっても暫くしたら新しい料理が運ばれてきたので、全部食べても大丈夫だと思っていました」  大丈夫なら全部食べきる気だったことに更に驚く先輩は、頭を降ってから少年に話しかける。 「歓迎会の趣旨は交流が主です。誰とも話さず終わってしまっては意味がありません。兎に角、先輩でも同級生でも構いませんから君から話しかけてきなさい」 「はい。承知しました」  少年は漸く箸を置き、集団で談笑している同級生の輪の中に入るのだった。  
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!