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智秋はたまに連絡をよこした。マンションを引き払い、次にどこで事務所を開くのか思案中だそうだ。今は知り合いの所やレンタルスペースなどを転々としているという。
ルゥルアと一緒に住んでいたマンションは、遺体こそ転がっていなかったが、血痕が多量に残りその掃除が大変だったようだ。もう暮らす気にはならないと言っていた。
アブルは身体を修復した後にどこかへ消えた。邪意魔程ではないにしろ悪さをする地球外生命体の連中を狩るために、世界中をまわるのだろう。
そしてルゥルアは……。
「あいつは邪意魔を追って旅に出た。どこにいるのか、わからないんだ」
肩を竦めながら言う牧島。
そう、智秋からワンボックスカーを譲り受けた彼女は、それに寝泊まりしながら旅をしているという。海流を調べ、邪筒がたどり着きそうな所を探しまわるつもりだ。場合によっては、日本を離れるのかもしれない。
松坂には、ルゥルアが世界征服を狙っていることも、牧島との微妙な関係も、伏せて話した。だからか、彼は会えないと聞いて少し残念そうにしている。
「まあ、いいや」と言って立ち上がる松坂。「きっと続きますよね、この話。これで終わるとは思えない。邪筒がまだどこかにあるわけだし」
「いや、できれば海の底でずっと眠ってくれて、終わりになってほしいんだが……」
溜息交じりに牧島は言った。本気でそう思っている。もう、あんな騒動はごめんだ。
「そうなるといいんですけどね、人間としては。いや、どうだろう? むしろ、負のエネルギーをどんどん吸収して大きく強くなって、一回この世界を滅ぼした方がいいかもしれませんよ?」
松坂が子供のような笑顔をしながら言う。
「おいおい、やめてくれよ。今はまだ、シャレにならないんだ」
「あはは……。とりあえず、ご苦労様でした。また面白い話があったら、教えてくださいね」
そう言って手を上げ、松坂が離れていく。
ふう、とベンチに背を預け、青空を見上げる牧島。
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