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横浜・山下公園
今日は昼間から山下公園に来た。松坂に会うことになっている。珍しく彼から呼び出された。おそらく、比留川が逃げたうえに早速犯行に及んだため、というのもあるのだろう。
「とんでもないことになりましたね」
ベンチに腰掛けるなり、松坂が言った。常になく険しい表情だ。
相変わらず、公園内は閑散としていた。事件の影響が尾を引いているらしい。いつもなら観光客さえ訪れる公園だけにもの悲しい雰囲気がある。
青い空も広がる海も、どこか虚しく感じられた。
「比留川の捜査がどんな感じか、話は聞いているか?」
牧島が訊いた。少しでも多く情報が欲しい。
「誰、あるいはどんな団体が比留川を逃がしたのか、全力で捜査しているところですね。僕もネットから探っています。比留川には信奉者がいましたから。あんな異常犯罪者なのに……いや、異常すぎるからこそ、惹きつけられるおかしな連中もいる。あいつが死刑判決を受けたときも、ネット上では『神は殺せない』なんて声高に言う連中が出てきたし……」
嫌悪感を露わにしながら話す松坂。
「理由については今は詳しく言えないが、おそらく比留川を逃がし、匿っているのは砂漠の炎だ」
牧島が言うと、松坂は目を見開いて驚いた。当然だろう。両者の間にこれまでは全く接点など無かった。
「牧島さん、いったい今、何に関わっているんですか? この間の浜波区のホテルや浜波署での騒動からずっと、メチャクチャな事件が続いてる。もしかして、これ全部関係があって、牧島さん何か掴んでいるんじゃあ?」
言われて、牧島はため息をつき頭を抱える。考えてみると、牧島が関わったために砂漠の炎は比留川に目をつけた。あの異常者を野に放ってしまった原因の一端は自分にある。自分が関わらなければ、あの女性は犠牲にはならなかったかもしれない……。
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