プロローグ

2/5
67人が本棚に入れています
本棚に追加
/270ページ
 2003年4月17日。イラク国立博物館前――。  館長のドニー・ジョージは、300人以上の略奪者に博物館が蹂躙されているのを、呆然と見ているしかなかった。  このような事態を恐れ、館員の一人が米兵に『博物館の正面に立って守ってくれ』と頼んだ。しかし返事は『すまないが、そういう命令は受けていない』というものだった。  そもそも、200年とちょっとの歴史しかない文明国家アメリカは、5000年の歴史を持つメソポタミア文明発祥地の遺物保護には、無関心なのだ……。  フラフラと、力ない足取りで博物館に近づいて行くドニー館長。それを「危険です」と館員達が必死に止める。  「メソポタミアの記録が……。文明の礎であるシュメル文明の数々の遺品が……」  譫言のように、ドニー館長が呟く。  「国際社会はこんな事を許しません。アメリカが無関心であっても、国連に訴えかけて手配すれば、必ず取り戻すことはできるでしょう」  館員の一人が言った。  そうだ。そうでなければいけない。ここにある物は皆、重要文化財であり、人類にとっての宝なのだ……。  そこで、ドニー館長はハッとなった。  宝……それだけではない。人の世に存在してはならない物もあるのだ――。  突然、必死の形相で走り出すドニー館長。  「どうされました、 館長っ?」  驚く館員達。数名が慌ててついて行く。  「地下は? 地下の0番収蔵庫まで襲われたら、大変なことになる」  0番収蔵庫――その存在は、限られた者にしか知らされていない。なので、ほとんどの者は意味がわからずに首を傾げていた。  万が一の時に備えて密かに造られていた、地下へ続く通路の入り口がある。博物館の裏手にまわり、そこを目指すドニー館長。  だがその近辺にも、略奪者達は(たむろ)していた。これから突入しようと、目をぎらつかせている。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!