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2003年4月17日。イラク国立博物館前――。
館長のドニー・ジョージは、300人以上の略奪者に博物館が蹂躙されているのを、呆然と見ているしかなかった。
このような事態を恐れ、館員の一人が米兵に『博物館の正面に立って守ってくれ』と頼んだ。しかし返事は『すまないが、そういう命令は受けていない』というものだった。
そもそも、200年とちょっとの歴史しかない文明国家アメリカは、5000年の歴史を持つメソポタミア文明発祥地の遺物保護には、無関心なのだ……。
フラフラと、力ない足取りで博物館に近づいて行くドニー館長。それを「危険です」と館員達が必死に止める。
「メソポタミアの記録が……。文明の礎であるシュメル文明の数々の遺品が……」
譫言のように、ドニー館長が呟く。
「国際社会はこんな事を許しません。アメリカが無関心であっても、国連に訴えかけて手配すれば、必ず取り戻すことはできるでしょう」
館員の一人が言った。
そうだ。そうでなければいけない。ここにある物は皆、重要文化財であり、人類にとっての宝なのだ……。
そこで、ドニー館長はハッとなった。
宝……それだけではない。人の世に存在してはならない物もあるのだ――。
突然、必死の形相で走り出すドニー館長。
「どうされました、 館長っ?」
驚く館員達。数名が慌ててついて行く。
「地下は? 地下の0番収蔵庫まで襲われたら、大変なことになる」
0番収蔵庫――その存在は、限られた者にしか知らされていない。なので、ほとんどの者は意味がわからずに首を傾げていた。
万が一の時に備えて密かに造られていた、地下へ続く通路の入り口がある。博物館の裏手にまわり、そこを目指すドニー館長。
だがその近辺にも、略奪者達は屯していた。これから突入しようと、目をぎらつかせている。
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