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車内~比留川邸敷地内
智秋の運転技術は確かだった。目的地に向かい、カーナビも使わず最も近いルートで進む。それも、猛スピードでだ。いつもの惚けた姿はそこにはなかった。
これ以上車では入ることのできない場所まで来た。鬱蒼とした森が高台の上まで続いている。頂上にあるのが、比留川のアトリエ兼邸宅だった建物だ。
資産家の両親が芸術家志望の子供のために買い与えたという。
そこでヤツは、6人もの女性を無残に殺害した。芸術作品と称して……。
牧島は2年前、その場所を突き止め、真っ先に飛び込んで比留川を徹底的に叩きのめした。そして殺そうとした。あの異常者を生かしておくつもりはなかった。あとからやってきた刑事達に止められなければ、本当に息の根を止めていただろう。
悲惨な事件があった場所だが、邸宅は残されているらしい。おそらく誰も近づかず、ひっそりと……。
「歩けるのか?」
牧島が、ゆっくりと車を降りてきたアブルに声をかける。
「これ以上傷口が広がると、私の力でも修復が難しくなる。しかし、注意しながらになるが、何とか歩けるよ。激しい動きはできそうもないので、私は気を飛ばして邪意魔の力を弱める努力をする。君はかなり肉体的にも強いようだから、ルゥルアを助け出してくれ。そうすれば、私と邪意魔との気の勝負に持ち込める」
「気の勝負? エネルギー生命体だけに、そのエネルギーのぶつけ合いをするって事か?」
智秋が訊いた。
「まあ、簡単に言えばそういうことだろう。おそらく君たちには理解は無理だ」
「理解するのは諦めるよ。何とかなりさえすればいい」
肩をすくめる智秋。
「とにかく、行こう」
牧島が促し、3人が登っていく。アブルが遅くなりがちだが、先に行ってくれと手で合図していた。
建物が見えてきた。朽ち果てていく途中の洋館というのは、見るからに不気味だ。夜の闇、微かな月明かりに照らされている姿だからか、尚更そう感じられる。
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