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「私の気――意思エネルギーで邪意魔の力をできるだけ軽減させる。断続的にはなってしまうが、牧島君、合間を見てルゥルアを救ってくれ。なるべく邪意魔、邪筒から彼女と君が離れてくれれば、あとは気の勝負に持ち込み、ヤツをまた眠らせる」
そう言うと、アブルは智秋に支えられながら、両手を再度前に掲げた。洋館に掌を向ける。そして、何らかの声を出しているが、それは牧島には理解の及ばない音に聞こえた。
「牧島ちゃん、頼んだっ!」
智秋も叫ぶ。
しっかりと頷く。牧島は洋館の玄関を蹴破り室内へ飛び込んだ。
広い建物――。エントランスを越え中へ進む。覚えている。ヤツが芸術と称した凶行に及んでいたのは奥のアトリエだった。
2年前の光景がフラッシュバックする。無残に殺害された女性の遺体の前で、ニタニタしていた比留川の姿――。
うおおぉっ!
叫びながら、思い切りドアを開ける。
「牧島っ!」
ルゥルアの声が響いてきた。見ると、ブラとショーツだけにされた彼女が比留川に押さえつけられている。大きな作業用テーブルらしき物の上だ。
「早かったね、牧島さん」
季節の挨拶のように何気なく言う比留川。体を起こし、ルゥルアを放した。
彼女は慌てて比留川から逃げようとする。しかし、彼の腕が素早く動き、ルゥルアの肩を掴んだ。
「きゃあっ!」と叫ぶルゥルアの鳩尾に、比留川が拳を叩きつける。
ドスッと音がして、彼女が大きく目を見開く。そして前のめりに倒れた。手足は痙攣しているようだ。微かに「あうぅぅ……」という呻き声が聞こえる。
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