車内~比留川邸敷地内

8/14
前へ
/270ページ
次へ
 「ルゥルア、一人で歩けるか?」  小声で問いかける牧島。  「なんで?」  やはり小声で応えるルゥルア。  「ヤツは、今はまず俺を狙っている。俺がひきつけている間に外へ逃げろ。アブルがいる」  ルゥルアが息を呑む。しかし……。  「やだ。一緒に戦う」と彼女は何度も首を振る。  「バカ。無茶だ」  「バカって言うな」  グワァァッ! と激しい雄叫び。巨大化した比留川が襲いかかってくる。  「うわぁっ!」  2人して叫んで逃げる。比留川が振るった拳が壁を破壊した。  牧島は「逃げろっ!」と怒鳴りながらルゥルアの体を突き飛ばす。  「牧島っ!」と叫ぶルゥルア。その姿が大きな影に隠れた。比留川だ。怯まず肩から体当たりをする牧島。アメフト選手のように突き上げる。  しかし、当然のようにはじき飛ばされた。  フロアを転がり距離をとる。赤い目を爛々と輝かせて追ってくる比留川、いや、すでに怪物と言った方がいいか?  その巨体にかかわらず素早い動きで、目の前まで迫ってきた。  くそっ、ここまでか……?  だが、バキッと音がして、比留川の動きが止まった。  牧島は目を見張る。なんと、後ろから比留川の背中にルゥルアがイスを叩きつけていたのだ。  バラバラに壊れたイスを見て、彼女が唖然とする。そして、振り向いた比留川に睨まれ、ビクッとして後退った。  その時――。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加