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何か不思議な声、あるいは音のようなものが強く響いてきた。さっき聴いたのと同じ……そう、アブルだ。
途端に比留川の動きが止まり「グルゥグルルゥ……」と呻き声をあげる。徐々に身体が萎み始めた。
これは……?
アブルは気の力――自らの身体を構成する意思エネルギーで邪意魔の力を抑えると言っていた。それが功を奏しているのか?
「ううぅ、うわぁぁぁ……」
次第に人間らしい声と身体に戻っていく比留川。更に、その胸の邪筒の赤い光が弱く点滅し始める。
「くそう、もう少し、もう少し、力を……」
呻きながら、増悪を込めた目で牧島に向き直る。
今ならあるいは?
思い立ち、牧島は比留川に飛びかかった。胸に付いている邪筒を掴む。そして力を込めて引きはがした。
コロン、と床を転がる邪筒。
比留川が慌てて体を振ると、勢いで牧島は後方へ飛ばされた。まだある程度の力が残っているらしい。徐々に失われていくのか? それとも邪筒が近くにある間は維持しているのか?
すかさずルゥルアが邪筒に駆け寄るが、比留川が彼女に後ろから組みつき、その首を絞める。
「あうっ、きゃあぁっ!」
悲痛な叫び声をあげるルゥルア。
「やめろ、比留川っ! 彼女を放せ」
「うるさい。この娘は僕の物だ」
「ふざけんなっ!」首を絞められながらもルゥルアが叫ぶ。「誰がおまえの物になんかなるかっ!」
思い切り比留川の腕に噛みつくルゥルア。
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