67人が本棚に入れています
本棚に追加
/270ページ
ユラユラとしながら、比留川は歩き出す。広間を横切り玄関に向かった。そして外へ出て行く。
「牧島、あれをっ!」
ルゥルアが叫ぶように言って比留川の腕を指さす。いつの間にか、彼の手に邪筒が握られていた。
顔を見合わせ、後を追う2人。
ゆっくりと歩く比留川の前に、アブルと智秋が立ちふさがった。
「やはり、おまえが来ていたんだな。どおりで、力が出せない時がたびたびあった……」
おまえ、とはアブルと共生している地球外生命体のことだろう。比留川の口から、彼のものでない声が出ている。これは、人の口を使って邪意魔が喋っているのか?
「その筒の中で静かに眠れ」
アブルが言った。
「そのまま封印されてしまうのはいやだ。まだまだ、我はこの星の生き物の負のエネルギーを食い尽くす」
「そんなことは許さんっ!」
アブルがピシャリと言って、両手を前に上げた。
しかし、比留川は「シャッ」と鋭い声を発し走り出す。
なんだと?!
唖然とする牧島。まだあんな動きができるのか?
慌てて後を追う。
ルゥルアと智秋、アブルも続いた。
比留川は洋館の裏手にまわる。そこは絶壁となっており、下は海だ。
ギチギチと骨や筋肉をきしませて大きく身体を反らす比留川。全身の力をすべて集め、それを使い切るかのように激しい勢いで、邪筒を空へ投げた。
とたんに、バキッ、ブチィと身体が壊れる音が彼のいたるところから鳴り、血飛沫が吹き上がる。そして、ばったりと倒れた。人間としての限界を超えたのだろう。邪意魔によって、無理な動きをさせられたのだ。
「ああっ! 邪筒がっ!」
ルゥルアが悲痛な声をあげた。
邪筒は暗い空に大きな弧を描いて飛び、海へと落ちて行った――。
最初のコメントを投稿しよう!