山下公園

1/3
67人が本棚に入れています
本棚に追加
/270ページ

山下公園

 「……というわけだ。邪筒は海へ消えた」  牧島が話し終えると、同じベンチに座っている松坂は放心したような表情になり、空を見上げた。  山下公園だ。秋晴れの青い空が広がっている。  あの恐るべき夜から一週間が経っていた。  約束通り、牧島は松坂に顛末を話して聞かせた。  はたして信じるかどうかはわからない。あるいは、牧島のことを変人扱いするかもしれない。それでも、こいつだけには本当のことを説明しておきたかった。  実はあの洋館は、比留川が過去に凶行に及んだ場所として、警察もマークしていた。  奴が行方不明となった後、すぐに捜索され、もし人の出入りがあった場合はわかるようにセンサーも取り付けられていたのだ。邪意魔(Evil evil)が力を及ぼしている間は無効にされていたが、邪筒が海に消えたので再稼動したようだ。あの夜も、牧島達が高台から下りていく頃、入れ替わるように警察の部隊が駆けつけてきた。   洋館の近辺に比留川やシャフラ、ダーシュをはじめ7人の死体が転がっていたことから、猟奇殺人を行っていたグループが何らかの理由で仲間割れして自滅した、という方向で捜査は進んでいる。  犯人グループの死因がみな不可解であることは、きっと公表されない。不審な事件として警察のファイルに残されることになる。  「信じられない……。でも、僕は信じようと思います。だって、牧島さんがおかしくなっているなんて、とても思えないし。それに、僕が知らされているあの事件の情報と照らし合わせても、話の筋としては整合性ありますから」  ようやく松坂がそう言った。  「それは嬉しいね。友人を一人なくすんじゃないか、と不安だったんだ」  笑いながら応える牧島。  「じゃあ、もう一つの約束。その人達に会わせてくださいね。特に、ルゥルアっていう女性には興味があるなぁ……」  目を輝かせながら、松坂が言った。  「いや、それは……」  言葉を濁す牧島。実は、あの3人とは別れたままで、行方が知れないのだ。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!