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どこかの海辺
しばらく黙って外を見るルゥルア。
ワンボックスカーの運転席だった。シートを倒し足をハンドルに乗せ、寝そべっている。
良い天気だ。
ウインドウから見えるのは、砂浜と青い海。横浜からはだいぶ離れている。
季節を過ぎた海水浴場には、人は疎らだ。
カモメやトビが空を飛ぶ。
風は少なく、波は穏やかだった。
この海のどこかで、邪意魔は眠っている――。
「牧島……」とようやく声をかけた。
「なんだ?」
「一度だけ真面目に話すから、黙って聞けよ」そう言って、大きく息を吸い込んだ。そして続ける。「いろいろありがとう。あんたがいなかったら、どうなっていたかわからない。だから、感謝してる。それに……」
涙がこぼれそうになるのを堪えた。スマホの向こうから、牧島の息づかいが微かに聞こえてくる。
「私は、牧島のことが好きだ。大好きだ。でも、私には目標がある。だから、だから……」
呼吸を整え、気持ちを落ち着ける。
「……止められるもんなら止めてみろ。私を見つけ出すって? できるもんならやってみろ。楽しみにしていてやるよ。でも、私は自由な鳥なんだ。そう簡単には捕まらないからな。じゃあなっ!」
言い終えるとすぐにスマホを切った。そして電源も落とす。身体を起こし、エンジンをかけた。
さて、行くか……。
もう一度海を見る。水平線の向こうに牧島の顔が朧気に見えた気がする。
あの夜、抱きしめ合いキスした場面が、蘇る……。
目を伏せフッと笑う。
しばらくして顔を上げると、ルゥルアは車を走らせた。
海岸線に沿って、どこまでも……。
fin
※ ※ ※ ※
最後までお読みいただき、ありがとうございました。楽しんでいただけたなら嬉しいです。
旅するルゥルアにどこかで出会ったなら、気軽に声をかけてやってください。
でも、邪筒には絶対に近づかないように……。
では、また!!
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