【SS】急性受愛欠如症2

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【SS】急性受愛欠如症2

 その間に看護師は点滴と一緒に持ってきていた箱を私の近くで開け中身が見えるように傾けた。 「もし音楽が聴きたくなったらこちらをお使いください。邦楽から洋楽、環境音などありとあらゆる音楽を取り揃えています。お気づきだと思いますが既に景色に合わせた音がありますのでそれをお楽しみいただいても構いません。それと動画サイトや映画、ドラマなどもありますのでお好きなのをお選びください。ただし点滴終了と同時に終わってしまいますのでご注意を。それとイヤホンとヘッドホンの有線とワイヤレスをそれぞれご用意してますのでお好きなのをどうぞ。もしスピーカーでお聞きになりたい場合は直接流すもしくはBluetoothで室内に設置されたスピーカーと繋げますのでお好きなのをどうぞ。この部屋完全防音になっておりますのでその辺りはご安心ください」  看護師は説明し忘れたことがないか考えていたのか一瞬止まった。  だけどすぐに笑みを浮かべ話を始める。 「何かお飲み物は飲まれますか?」 「いえ、大丈夫です」 「わかりました。あちらの冷蔵庫に水とお茶などが入っていますので喉が渇きましたらどうぞ。ですがアルコール類がないのと二本目から料金がかかりますのでそちらはお気を付けください。では早速、点滴の方を始めさせていただきます」  その言葉に私は腕を差し出した。少しして看護師の声と共にチクッとした痛みが一瞬だけ腕から伝わった。今の私からすれば取るに足らないどうでもいい程度の感覚。  そして看護師は点滴をチェックすると立ち上がった。 「それではリラックスしてお過ごしくださいね」  そして一度頭を下げると静かに部屋を出て行った。  静まり返った部屋の中、点滴筒にぽた、ぽた、ぽた、と一定のリズムで落ちる愛はチューブを通り私の腕に流れていく。それをただぼーっと十分ほど眺めていた。  そしてその後はヘッドホンに手を伸ばし音楽を聞き始めた。ロックやポップス、ヒップホップやレゲェなどありとあらゆるジャンルを聞きながら点滴筒をただぼーっと眺める。その間は何かを考える気にもなれなくて仕事で疲れ切った夜みたいにひたすらぼーっとしてるだけ。こんなの本当に意味があるのかなんて疑問もたまに浮かんだがすぐに消えた。  だけど二十分程経ったぐらいから変化を感じた。それはロウソクに火が灯るように微かだけど幸福感が胸の中に滲み出してきた気がした。  それから更に約二十分後。温かな光に、例えるなら神様の光に包まれたような心地よい気持ちをぽかぽかと感じ始めた。  そして一時間後……。ノックのあとにドアが開き看護師さんが部屋へ入ってきた。 「ご気分はどうですか?」  私と目が合った看護師さんはニコやかな笑みを浮かべそう訊きながら近くまで足を進めてきた。 「はい。とってもいいです」  それはスッキリと目覚めた朝のように清々しくて、心から愛し合う人へ向けられるような深い愛情に満たされ、心の奥底から幸せが込み上げてくる感覚。一時間前のどんよりした重い雲のような気分が嘘のように今は最高に晴れやかな気分だった。全てか上手くいくと心から信じられる希望に満ち溢れた気分。 「良かったですね。顔色も随分と良くなられましたよ」 「そうですか? ありがとうございます」 「それでは点滴の方外させていただきますね」  看護師さんはそう言うと私の腕に手を伸ばし針を抜いた。そして輸液容器を点滴スタンドから外したりとしている間に私は立ち上がり最高の気分で気持ちのいい伸びをする。  それから看護師さんの指示で部屋を出て、支払いなどを済ませると病院を出た。 『さぁて。明日も仕事だけど頑張っていこう!』  そんな前向きなことを考えながら帰路についた。
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