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【短編】DJ.トウフ2
「よし」
「――あの。何でしゃべれるんですか? というか何でDJ? どうやって音楽流してるですか? それから……」
「あぁ! そんな一気に質問するな」
「すみません」
「じゃあお前は何でしゃべれるんだ?」
「えっ?」
急なその質問返しに思わず考え込んでしまったが答えは皆無。
「分からないだろ?」
「はい」
「それと同じだ。そう言うもんだと思ってくれ」
確かに彼(豆腐に性別という概念があるのかは定かではないが)の言うことも一理ある。僕がどうしてしゃべれてどうして息が出来ているのかという質問に答えられないようにトウフも答えらえれないのだろう。そう考えれば納得だ。納得か?
「それより何か曲でもかけてやろうか?」
「――じゃあお願いしようかな」
目の前の現象に納得すると気が付けばこの状況を受け入れ落ち着きを取り戻していた(むしろ戸惑いが限界突破して逆に冷静になったのかもしれない)。
「そうだなー。――それじゃあこいつにするか」
ゆっくりとスクラッチをしながら少しだけ悩むトウフ。だけど曲が決まるとそのままスクラッチをして曲を流し始めた。部屋中に流れたそれは僕好みの最高な音楽。思わず表情に花を咲かせ首を揺らす。
それからしばらく続いたトウフのDJタイム。僕のツボを全て押さえているのかと訊きたくなる程に全部が僕好みの曲だった。
そのおかげですっかりテンションも上がり楽しんでいた僕だったが腹の虫が忘れていた空腹を思い出させる。それは丁度、僕がリクエストした大好きな曲から別の曲に変わった瞬間だった。トウフはその鳴き声に曲のボリュームを大きく下げる。
「そういや途中だったな」
その声はどこか寂しそうだった。
「まぁ仕方ねーか。聴いてくれてありがとうな」
曲は止まりトウフからの哀愁を纏った言葉だけが響いた。
「さぁ、そのままでも炒めても何でもいい俺をその腹の足しにしてくれ」
そうだ。トウフは豆腐だったんだ。楽しい時間がそれを忘れさせていた。
だけどこんなに最高な曲をかけるようなトウフを食べれられるわけがない。
「無理だよ。それに君を夕飯にしようとしてたわけじゃないから僕がそれまで我慢すればいい話だし」
「おいおい。俺は豆腐だぜ? 毛布に包まってるアイツだって知ってる。俺には賞味期限がある。つまり寿命だ。それを過ぎれば俺は微妙になる。そうなれば豆腐失格だ。折角なら美味いうちに食ってくれ。それに炒めてもいいって言ったがよく考えれば俺は絹ごしだ。それには向いてない。なら尚更、寿命は重要だな」
「でも……」
分かっているけど。こんなにも最高なトウフを食べろだなんて。僕にはできない。
「分かった」
僕の浮かない顔を見て気持ちを察してくれたのかトウフは諦めたような声でそう言った。
「だが俺の寿命はもって十日だ。それまでには食ってくれ」
彼を食べるという問題が解決した訳ではないがとりあえず今はまだ一緒に居られる。そのことにホッとしたと同時に嬉しかった。
「ありがとう。それじゃあ次は……」
そして僕のリクエストからまた始まったDJタイムは夕食まで続いた。
それから僕は新たな同居人と言えばいいのか同居豆腐と言えばいいのか兎に角、彼と一緒に生活を送った。音楽のある最高の生活を。
普段トウフはジップロックで水に浸かりながら寝てる。帰って来たらそんな彼を取り出しお皿に移し音楽タイム。それが日課だ。
トウフは僕の好きな曲を沢山教えるとそのアレンジ曲を作り流してくれた。僕の好きな曲とそのアレンジ、彼のオリジナル曲。この三種に加え時折トウフがマイクを握るDJタイムは毎日行われた。
僕は何もかも忘れて心から楽しめたその時間が一日の中で一番好きだった。しかもトウフは僕が落ち込んでたりすると励ますように、疲れてたりするとリラックスできるような選曲してくれる。それにその曲をBGMにしながら話を聞いてくれたりもするんだ。ポジティブなトウフは僕を元気づけてくれた。
彼と出会ってから毎日が楽しくなったし、何より辛い時に誰かがいるっていうのは心の大きな支えになる。たまに一人の夜が辛い日もあったけどそれもすっかりなくなった。一緒に音楽で踊ったりなんてことない話をしたり。気が付けば友達のいない僕にとって彼は、トウフは掛け替えのないのない存在になっていた。それは心の底から嬉しい時間で確実に走馬灯の一ページを埋める時間。
だけど人生のグラフが山を高く描けば描くほど絶景が見えるがその分落ちる時は辛い。終わりの見えている楽しい時間は楽しければ楽しい程どんどん気分が上がっていくがふと終わることを思い出し下を見てしまうと、その高さに恐怖する。その時が来ればこの高さから落ちるのだと、もうこの絶景を見ることは叶わないのだと。
どれだけ走ったところで逃げられないその時は確実に僕の後ろから迫っていた。
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