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7話【訃報】
11月半ば、2022年ももうすぐ終わろうとしている。残すところカレンダーは後2枚だ。
バイトから帰宅するなり狭苦しい部屋のベッドに脱力するように横になって、なんとなくテレビのリモコンを手に取りチャンネルを回す。
どのチャンネルも似たようなバラエティ番組だったり事実なのか疑わしいコロナウイルスの陽性者数のニュースばかりで変化がなく見ていて面白みがない。
(そういえば動員令かうもうすぐ2ヶ月か……)
9月の動員令からもうすぐ2ヶ月になるが、コロナ関連のニュースを流すほうが視聴率が取れるからなのか、もうこの時期になるとウクライナ侵攻関連のニュースは大きく報じられなくなっていた。
テレビを消し、いつものようにユーチューブの通知動画を観ようとスマホを手に取ろうとしたときだった。突然着信音が鳴った。
スマホのディスプレイを見ると電話はミレイナさんからだった。
「……もしもし」
基本LINEでやり取りしていたので電話なんて珍しいなぁと思いつつ電話に出ると、ミレイナさんの助けを求めるかのような叫びが耳に突き刺さってきた。
『タツヤ……タツヤアアァ……!!』
『どうしたの!?』という俺の問いかけにも答えられないくらい彼女はパニックになっていた。
『兄さんが、兄さんがっ……!!!!』
「落ち着いて!電話は切らなくていいから、まずは深呼吸して気持ちを落ち着かせて。何があったかはその後でいいから!」
とにかく今はパニック状態の彼女を落ち着かせる必要がある。
彼女の動揺ぶりからしてなにかよくないことがあったであろうことは明らかだった。
その後少し落ち着きを取り戻したミレイナさんが動揺しながらもゆっくりと話し始めた。
『……兄さんが戦死したっていう戦死通告書と遺書が届いたってさっき両親から電話があったの……手紙には『ウクライナ軍の攻撃で死亡』って書かれてたって……』
「…………」
なんとなくそんな気はしていたが、その彼女の言葉に俺は一瞬言葉を失ってしまった。
「……続けて」
俺がそう言うと彼女は今にも泣き出しそうな声で話し始めた。
『兄さんは真面目で優しい人だった……なのにっ……なのにどうしてそんな人が死なくちゃいけないの?……なんで?…なんでなの?……なんで……っヒク、おがしいよこんなの……っ』
何があったのか話し終えると、彼女は堰を切ったように号泣してしまった。
俺は電話越しに聞こえてくる彼女の泣く声を黙って聞いていた。人が泣いている声は聞いているだけでとても心に刺さる。
しばらくして電話は切れてしまった。
「…………」
俺はスマホを枕の横に置いて天井を見上げる。
ロシアのウクライナへの行為は決して許されるものじゃない。ロシア軍の非人道的な行いのせいでウクライナの人たちも沢山亡くなっているし、各国が武器を提供しなければウクライナはもっと早くに敗北していたかもしれない。
実際、開戦当初はどのメディアでもウクライナはロシアに負けると言われていたのだから。
しかし戦争は終わるどころか泥沼化の様相を呈している
ゼレンスキーは西側各国に武器の提供を呼びかけ、アメリカはウクライナに携行式対戦車ミサイルやロケット砲等のハイテク兵器兵器を、その他の各国も退役し余剰になった戦車などを提供、
これらを駆使して闘うウクライナ。
しかしロシア側も多大な損害を出しながら応戦。
各国が武器を提供、ウクライナ軍は提供された武器や無人機、ロシア軍から鹵獲した戦車などの戦闘車両を使って応戦、ロシア軍も空や海上からのミサイル攻撃で応戦、ゼレンスキーは西側により強力な兵器の提供を呼びかける。
プーチンも負けを認めたくないのでどうにか戦局を打開しようと新旧関係なく兵器を前線に投入して軍民関係なしに攻撃する、ロシア軍による都市部への無差別攻撃で民間人に死傷者が出て報復としてウクライナ軍が反撃、ロシア軍も報復として無差別攻撃を継続し、攻撃に巻き込まれまたウクライナの民間人に多数の死傷者が出る、ウクライナ軍が報復する……そのウクライナ軍の攻撃に対してロシア軍がまた報復攻撃……これの繰り返しだ。
経済制裁の効果も薄く、国連も機能しているのか微妙で、どんなに世界各国の国の人たちが反戦や平和を訴えても争い合う2人の大統領選にその願いは届かない。(勿論意味不明な根拠もない理由で戦争を仕掛けたプーチンが一番悪い)
そして 9月にプーチンは動員令を発表、軍務経験のある者に限ると言っておきながら実際には軍務経験のないものまで動員されていた。
それによってミレイナさんのお兄さんは戦地に送られウクライナ軍の攻撃によって命を落とした。
なんだか複雑な気持ちになる。
仕掛けたのはロシアのほうであり侵攻を受けたウクライナは被害者だ。けれど、その戦争によってミレイナさんのお兄さんは命を落とし、肉親を失った彼女は今身が引き裂かれそうなほどの悲しみに暮れている。
粗末な考えかもしれないけれど、兵士と兵器を使って殺し合うくらいならトップ同士で気が済むまで殴り合えばいいのに…とこのときは本気でそう思った。
「……一服するか」
俺はベッドから立ち上がるとスマホ片手にベランダに通じるドアを開けてサンダルを履いてベランダに出た。
ライターでタバコに火をつけ、曇った夜空を見ながらふぅーと息をはく。
「ミレイナさん大丈夫かな……かなり泣いてたもんな……」
国際問題なんて真面目に考えたことなんてなかったし、俺のちっぽけなIQの脳みそでは解決策なんて出てこない。
ただ、号泣していた彼女のことを思うと、心配でならなかった。
to be continued
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