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8話【大晦日の電話】
12月31日大晦日。2022年も後数分で終わろうとしている。
俺はひとりソシャゲをプレイしながら貴重な今年最後の時間を堪能していた。
先月の電話以降ミレイナさんとの連絡は取れない状態だ。電話は何度かけても『おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません』という機械音声が返ってくるだけ、24日と25日の2日にわたってデモ会場に足を運んだものの、2日とも会場で彼女の姿を見ることはなく、メインの連絡手段だったLINEで連絡をしてみても既読は付くが返事は全く返ってこなかった。
「俺はどうしたらいいんだろうな。母さん」
俺は部屋の隅に置かれた仏壇を見ながらため息混じりに呟く。
仏壇の中には母親の名前が掘られた立札とにっこり微笑む母親の遺影が飾られている。
母親は俺が25歳のときにガンでこの世を去った。
母親が亡くなった直後はショックのあまり現実だと受け入れられず、数ヶ月無気力状態だった。
そのことを思い出すと、戦争と病気の違いはあれどミレイナさんの気持ちが少しわかった気がした。
「そりゃあ辛いよな。家族を亡くすってのは……」
その時突然電話が鳴った。着信音が早く出ろと言わんばかりに急かしてくる。
ディスプレイを見ると電話は警察からだった。
このところイタズラ電話や間違電話が多くなかなか出る気になれなかったが、着信音は未だ鳴り止まない。このまま放置していても耳障りなだけなので、渋々俺は電話に出た。
「はぁ……もしもし……」
相手は男性警官だった。
(新手の詐欺か?)
そんなふうに思っていると、警官はマニュアルを読むように淡々と『新垣達也さんの番号で間違いないですか?』と確認するように言ってきた。俺は緊張しながらも「はい。そうですが」と答える。
すると警官は続けざまに『では、ミレイナ.マカロフという女性と面識がありますか?』と聞いてきた。
なぜ警察がミレイナさんの名前を知っているのか気になったが俺は「はい」と答える。
すると警官は『わかりました』と言った後に『一昨日の夕方外国人らしき女性が橋の下で倒れていると通報がありましてね……現場には女性の物と思われるスマートフォンや財布が入ったバッグが落ちていて、その中に外国人登録証明書がありました。、倒れていた女性と外録証の写真の顔が同じだったので本人で間違いと我々は判断しました。また、争った形跡はなく、橋の欄干に手をついたときに付いたと思われる指紋が見つかったので女性は自ら飛び降りた可能性が高いかと……』と信じられないようなことを言ってきた。
(ミレイナさんが……そんな……)
それを聞いて俺は絶句してしまった。
「自ら飛び降りた」というのはつまりは自殺を図ったということだ。11月半ばに彼女が涙ながらに電話をしてきたことが思い出される。
お兄さんの死が理由なのか、それとも別な理由なのか、俺には分からない。けれどこのとき無性に自分が無力に感じた…。
すると黙り込んでしまった俺に電話越しの警官は『安心してください。幸い女性は気を失ってはいましたが生きていました。今は病院にいる筈です』と言った。
その言葉に沈みかけていた俺の心は少し救われた気がした。
そして警官は最後に『一応事件性がないか今調べている最中です。それで念のため、女性と貴方の関係について詳しく聞かせてもらいたいので、明日警察署に来てください』と言って電話は切れた。
スマホを耳から離し、机の上に置いてあるデジタル時計を見ると既に0時を過ぎていた。
急に色んなことを言われたのでなんだか疲れてしまったがミレイナさんが無事であることが知れた。
それだけで少し不安が和らいだような気がした。
「……寝よう」
俺は電気を消し、そのまま眠りついた。
to be continued
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