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14話【涙のち笑顔】
「来てくれてありがとう……でも、もう私とは関わらないで……これ以上タツヤに迷惑、かけたくない……」
彼女は俯いてそうボソッと言った。
「え……」
その言葉に俺は絶句してしまった。
刑事のおっさんは言っていた、彼女は俺に会いたいと言っていたと。なのに俺は3ヶ月も見舞いに来なかった。これでは愛想尽かされても仕方ないかもしれない。けれどせめてその理由だけでも知りたかった。
「…………俺がなかなか見舞いに来なかったから……だからもう関わりたくないってこと?」
俺がそう訊ねると、
彼女は首を横に振ってから、
「……私と一緒に居たらタツヤや牧野さんも何かトラブルに巻き込まれるかもしれない……タツヤも牧野さんもすごく優しい人だからこれ以上私の問題に巻き込ませたくないの…。だからお願い……私とは……もう……」
彼女は声を震わせ目にはうっすら涙を浮かべて今にも泣き出しそうになっている。
言葉から彼女の悲しみが、気持ちが伝わってくる。
脳裏に刑事のおっさんが言った言葉が過る。
ここで引くわけには行かない!
なんでもいいからとにかく彼女を慰めたかった。反射的に身体が動く、そして、
震える彼女の背中に腕を回し俺は包み込むように彼女を抱きしめてしまった。
抱きしめられて一瞬びっくりした顔をするが彼女に抵抗する様子はない。
そして彼女は俺のを背中をギュッと掴み、顔をくしゃくしゃにして堰を切ったように人目もはばからず号泣した。
俺は名にも言わずただ彼女の背中もトントンとしてあげた。
どうして根暗な俺がこんな大胆なことができたのか今でもわからない。今でも思い出すだけで顔が真っ赤になってしまうような思い出だ。けれど妻にとってはとても嬉しかった思い出だそうで、このことがきっかけで俺のことを好きになったらしい。
その後、様子を見に来たミレイナさんの担当医である男性医師に俺は彼女と外に散歩に行きたいと外出を許可してもらえないか頼んだ。
男性医師は「近場ならかまいませんよ」と言って外出を許可してくれた。
そして、車椅子に乗った彼女と病院から出ると病院からほど近い公園に向かった。
公園には何本も桜の樹が植えられおり白や薄ピンク色の桜の花が咲いていた。時折風が吹くとパァーと花びらが舞い散り、彼女の長いクリーム色の髪が靡く。
「きれい……」
風で舞い散る桜の花に彼女は目を輝かせる。
「病室ばかりに居て退屈じゃないかなぁって思ったから連れてきちゃったけど満足してくれたかな?」
俺がそう訊ねると彼女は「うん。満足だよ。やっぱり日本の桜は綺麗だね……」と言ってから、
「タツヤのお陰で元気取り戻せた。ありがとう」と俺の方に振り向いてそう言ってからにっこりと笑顔を浮かべた。
決して作り笑顔ではない本物の笑顔。風で舞い散る桜と相まって彼女のその笑顔は儚くもとても輝いて見える。
俺は感動のあまり固まった。
牧野と一緒に初めて病院に見舞いに行ったときは死んだ魚のような虚ろな目をしていた彼女。そんな彼女が笑っている。
軽く頬をつねってみる……痛い!
夢ではない。
俺は心の中からこみ上げるものを感じた。
「?タツヤ泣いてるの?私なにか変なこと言った?」
彼女は心配そうな顔をして首を傾げる。
俺は、ただ目にごみが入っただけだよと言って袖でそっと涙を拭った。
to be continued
余談
この時の思い出を妻が娘に話したのだろう。
俺が仕事から帰宅すると娘が必ずハグで盛大に歓迎してくる。
ハグと言っても猛スピードで走ってきて無邪気に飛びついてくるので、疲れているときにされるとちょっと迷惑だったりする。
まぁ、迷惑とは感じつつも結局かわいいから許してしまうのだが……。
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