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15話【バーベキューの約束】
翌日、俺は牧野と一緒に病院に来ていた。
ミレイナさんとは昨日ハグしたことは2人だけの秘密にしようねと帰り際約束していたのだが、その秘密はあっけなく牧野に知られることになる。
それは俺と牧野が部屋に入ってきたときだった。70代前半と思う老婆の患者が、俺の方を見て「お〜昨日そこの外人さんを抱きしめてたお兄ちゃんじゃの。今日も外人さんのお見舞いにきたんじゃろ?偉いの〜」と言ってきたのだ。
俺は苦笑いを浮かべ、ミレイナさんはそれを聞いて頬を赤くして両手で顔を恥ずかしそうに隠す。
「どういうこと?」
牧野はそう言ってジト目で俺の方を見てくる。
ここまでバラされてしまっては隠す意味はない、俺は昨日あったことを話せる範囲で牧野に話し、泣き出してしまった彼女を抱きしめて慰めたことを打ち明けた。
「へぇ〜そうだったんだ。でもよく目立つのが苦手な達也が、ドラマの俳優の芝井みたいなことできたね。なに?やっぱ泣いてる姿見てたらグッときちゃって、気がついたらギュゥ〜って感じ?」
まるで天井裏から一部始終を見られていたのではないかと疑ってしまうくらい正確な質問だ。
「すげーなお前。エスパーかよ」
俺がそう言うと牧野は笑いながら、
「ただの感だよ感」と答える。
すると、
「ねぇ、そう言えば、退院したらやってみたいこととか、あったりする?」と牧野はミレイナさんに訊ねた。
「まずスマートフォンを修理しに出さないといけません」
とミレイナさんは言う。
「ほれ、液晶にヒビ入ってちまってるだろ?」
俺は牧野の前までミレイナさんが持っていたスマホを見せる。
「あ〜確かにこれじゃあね〜」と牧野は俺から見せられた液晶画面にクモの巣状のヒビが入ったスマホを見て嘆息してから「他にはなにかしたいことはある?」とミレイナさんに訊ねた。
ミレイナさんは「う〜ん」と言って少し考えてから、
「美味しいものが食べたいですね。病院の食事もバランスが良くていいですが、少し物足りなさもあります」
と言った。
確かに病院食というのは薄味だったり、量が少なかったりする。
すると牧野は、
「そっか、なら、退院したら。皆でバーベキューでもしない?勿論退院して、新しくスマホも買って一通り落ち着いてからでいいから。どうかな?」と提案してきた。
「いいんじゃないか俺は賛成だぞ」
コロナ禍も大分収まり始めているしそれにバーベキューなら好きなものを好きなだけ食べられる。俺としても断る理由はない。
「バーベキューですか。いいと思います!」
ミレイナさんも牧野の提案に賛成のようだ。
こうしてまだ仮ではあるものの、退院後に皆でバーベキューをしようということになった。
その後、暇つぶしにと牧野が持参したトランプを使ってババ抜きや大富豪などをして過ごした。
ミレイナさんはババ抜きも大富豪もめちゃくちゃ強く、俺はどちも惨敗だった。
「それじゃなにかあったら連絡する」
「うん。それじゃっ」
空が暮れ始めた頃、俺と牧野はミレイナさんに別れを告げ病院を後にした。
to be continued
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