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2話【ミレイナ】
まさか見ず知らずのそれも外国人に声をかけられるだなんて思いもしていなかった俺は彼女の問いかけにどう返せばいいかわからず思わず「Yes!」を連呼してしまった。
そんな動揺する俺に彼女はクスッと笑いながら、
「日本語で大丈夫ですヨ。私、日本語わかるのデ」
と言ってから。
「良ければ一緒にデモに参加しませんカ?」
と反戦デモに参加しないかと訊ねてきた。
「え、えーと……どうしよう……」
こう言っちゃなんだが正直最初デモへの参加には消極的だった。目立つのは苦手だし、俺じゃなくてもいいじゃん。とも思っていたからだ。
けれど、
「お願いします!!お願いします!!」
俺に訴えかける彼女の表情は真剣で、目尻に少し涙が浮いている。
ふと、脳裏にウクライナ侵攻のニュース映像が浮かんだ。
彼女がどこの国の人かは分らない。(後にロシア人であることを知る)けれどあの出来事に対して真剣に考えているのだということは、彼女の必死さを見る限り間違いないものだった。
尚も懇願する彼女、次第にそれまで見向きもせず素通りしていた通行人がひとり、またひとりと足を止め何事かと傍観し始める。周りからの視線が痛い。
これでは色々誤解されかねない。
「わかった!わかったよ……」
本意ではなかったけれど俺はとりあえず彼女とデモに参加することにした。
「参加してくれてアリガトウ。後さっきは取り乱してゴメンナサイ……。迷惑かけました……」
どうやら彼女は自分の行動で俺が恥ずかしい思いをしたのではないのかと気にしいるようだった。
ウクライナの国旗がプリントされた小さなフラッグを右手で振りながら俺は彼女とデモに参加した。
デモ終了後、俺は彼女とコンビニのフードコートで話をしていた。
「デモに参加してくれてありがとう」
「別にいいよ。丁度俺も隙だったし」
「そういえば自己紹介してなかったな。俺は新垣達也。君は?」
「私はミレイナ.マカロフ」
俺が訊ねると彼女はそう言ってから、アマチュアのユーチューバーであること、〘ミレイナチャンネル〙という登録名で活動していることを話してくれた。
「へぇ……」
バイトと就活で手一杯な俺にとってはアマチュアとはいえユーチューバーである彼女のことを素直に凄いと思った。
「そういえば、どうしてデモに?」
俺が訊ねると彼女の顔色が変わった。
「……友達が戦争で死んじゃったから、それがきっかけで……」
とても哀しげな顔。俺は内心しまった。と思った。
「……なんか、ごめん……」
なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして途端に申し訳ない気持ちになる。
すると彼女は
「ううん。私こそごめんね。それじゃあそろそろ帰るから」と言ってから椅子から立ち上がると、手を降ってコンビニから出ていった。
聞かなければよかったかな…と反省しつつ、俺も椅子から立ち上がってコンビニを後にした。
to be continued
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