мир エピソード01

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 3話【ユーチューブでの告白】  「出掛けた先で反戦デモに参加することになるなんて思ってもなかったな……」  俺はひとりベッドに横になってスマホでユーチューブのゲーム実況動画を見ていた。  もうすぐ時刻は後数分で0時になろうとしている。   テンポのいい動画進行を見ながら俺はふと彼女がデモが終わった後にユーチューバーであると言っていたことを思い出した。  今見ている動画の視聴を一度中断し、ユーチューブのアプリを閉じてからグー○ルで彼女の言っていたユーチューブチャンネル名を入力する。  「えーと確か『ミレイナ.チャンネル』だっけ……」 最後の文字を入力し終え、(動画)の項目をタップする。 すると何本かのユーチューブ動画が投稿されていた。  その中に『報告』というタイトルが付けられた動画があった。投稿されたのはのは1ヶ月前のものでそれ以外で投稿されている動画はない。  「報告?どういう内容なんだ?」 半分興味本位で俺はその動画を見てみることにした。  動画は彼女の視聴者への挨拶から始まり、タイトルにある通り『皆さんに報告があります』と言ってから彼女は今もウクライナで戦争が続いていること、母国であるロシアの情報統制や言論の弾圧に対してとても遺憾に思っていること、そしてウクライナ人の友人がロシア軍によって殺され、とても複雑な気持ちであることを真剣な顔で伝えていた。  俺はふと最近テレビのニュースでブチャ等の都市でロシア軍が民間人を虐殺しているという報道を思い出した。おそらく彼女の友人も虐殺の対象にされてしまったのだろう。  『こんなのおかしいことです!!間違っています!!私の友達が何をしたっていうの?どうして死ななくちゃいけなかったの?私は納得できません!!……祖国が憎いです!!」  ブチャの虐殺のニュースが頭に過る。侵攻するロシア軍の軍事車両、無惨に破壊された街の光景、戦闘機の爆音と銃声音……。 泣き出しそうなのを必死に堪えて友人を殺されたことを語るその彼女の言葉はとても重く、心に刺さった。  尚も彼女は語る。  『この戦争を支持している人たちもいることは知っています。賛成するのも反対するのも個人の自由です。だから私はその人たちのことを批判はしません。けれど、私は今回の母国の戦争行為に対して断固反対します!すぐにでも兵をウクライナから撤退させるべきだと思っています!このままではウクライナに住む人もロシアに住む人もどちらも不幸になってしまう。だから私はこれからも抗議し続けます!』  そう 語る彼女の口調は力強く、顔も真剣だ。 動画の最後に彼女は視聴者に『皆さんを暗い気持ちにさせてしまってごめんない……』と頭を下げて謝った後『私は今日の配信を最後に活動をしばらく休止しようと思います。けれどまた気持ちに余裕ができたら配信を再開しようと思っています。それでは皆さんまた会いましょう』 悲しい気持ちをおしころすように画面の中の彼女は作り笑いを浮かべ視聴者に最後挨をして動画は終わった。   コメント欄には、彼女への励ましや、彼女の考えに賛同する意見が沢山コメントされていた。 短めの動画だったが俺は動画を見て何故彼女がデモに参加するのか、その理由がわかった気がした。  「なるほど。彼女が反戦デモに参加するきっかけはそういうことだったのか……」   俺はスマホを置き大の字になって天井を見上げる。   なんだか気持ちがどんよりと重く、知ってはいけないことを知ってしまったような罪悪感に包まれる。  「…………」  内容次第ではミレイナさん本人に確かめてみようともおもったけれど、もうその考えは頭から消え去っていた。 「……寝よう」  心の中にもやもやしたものを残したまま俺はスタンドの電気を消しベッドで目を(つぶ)った。  to be continued
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