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5話【男勝りな女友達】
当日。俺は予定より少し早く目的地に到着し彼女が来るのを待っていた。
数分待っていると花柄のワンピースを着た金髪美人がこちらに笑顔で手を降って近づいてきた。間違いなくミレイナさんだ。
けれど彼女以外のメンバーの姿がない。
「おはよう。そういえば残り2人は?俺はてっきり一緒に来るのかとおもってたんだけど」
俺が到着したばかりの彼女にそう言うとミレイナさんは「少し待ってみない?なにかあればLINEで返事が来ると思うから」と答えから、
「もう少し待ってみよ。まだ予定時間より5分しか過ぎてないし」
そうミレイナさんに言われて俺は腕時計に目をやる。彼女の言うとおりまだ待ち合わ時間を5分ちょっと過ぎた程度だった。
「ああ、そうだな」
少し不安を感じながら俺は彼女と残り2人が来るのを待った。
しかし、30分を過ぎても2人は現れない。
俺の不安は更に大きくなる。
そしてその不安を決定付けるかのように彼女のスマホに通知音とともにLINEが届いた。
届いたメッセージを確認し終わるとミレイナさんは残念そうな顔で俺に謝ってきた。
「ゴメンナサイ。2人とも急用ができて来れなくなったみたい……これどうしようタツヤ」
そう言って彼女は困った顔で余った2枚のチケットを見せてきた。
「……どうするったって……」
最悪捨ててしまうという選択もありだろう。けれど捨ててしまうのもなんだか勿体ない感じもする。
俺は考えた末大学時代の友人である牧野春日に電話で掛け合ってみることにした。
数回のコール音の後牧野が電話に出た。
『なぁに?』
寝起きなのかそれとも電話の相手が俺だとわかったからなのか(おそらくは後者だろうが……)牧野の口調はとてもやる気なさそうだ。
俺は早速先日反戦デモに参加しそこでミレイナさんと知り合ったこと、ミレイナさんを含む数人で今日東京ドームシティで遊ぶ予定だったが彼女と俺以外のメンバーが急遽これなくなってしまったことを話した。
『なるほどねぇ。それであたしに電話してきたって訳だ』
「そうなんだ。頼めるのお前くらいしかいないんだよ」
俺がそう言うと牧野は『う〜ん』と前置きしてから、
『東京ドームシティに来てるんでしょ?ならサンダードルフィンって知ってるよね?あれに達也が乗ってくれるなら来てあげてもいいよ?どうする?』
と言ってきた。
「はぁ!?お前正気か?」
俺はつい電話越しに吠えてしまった。
サンダードルフィンとは東京ドームシティにあるジェットコースターのことだ。
子供の頃に親に連れられて乗ったことがあるのだが、走行中に手すりに鼻を強打してしまった過去がある。
それ以来ジェットコースターを始めとする絶叫系マシーンを俺は苦手としている。
『どうすんの?それに乗ってくれないんならあたし来てあげないよ〜?』
小馬鹿にするように牧野は軽く煽ってくる。
通話中のスマホを左耳に当てながらチラッとミレイナさんの方を見る。
彼女は不安そうな顔で俺が通話を終えるのを待っている。
これは覚悟を決めるしかない。
「ハァ……わかった。わかった。その条件を飲もう」
『素直でよろしい♪それじゃあ交渉成立ってことで、到着は30分くらいかな……とりあえず今から向かうね』
そう陽気に牧野は言って一方的に電話は切れた。
俺は電話を終えてから深くため息をつく。これから恐怖のジェットコースターに乗ることになるかと思うとなんとも形容し難い気持ちになる。
すると顔色の悪い俺を見てミレイナさんが声を掛けてきた。
「あの〜タツヤ大丈夫デスカ?顔が真っ青ですよ?」
「あははは……大丈夫。ありがとう……それより友人と連絡がついた。30分くらいしたらここに来るらしい」
俺は作り笑いを浮かべて内なる恐怖を誤魔化してから2人で牧野が来るのを待った。
だが牧野が目的地に来たのは電話から1時間半経ってからだった。
「おまたせ〜いやぁ道迷っちゃってさ……あはは……」
「だと思ったぜ……どうせ方向音痴で迷ってたんだろ?この迷子」
「迷子ってなによぉ」
牧野はむくれ顔になる。
牧野格好は赤いTシャツの上から藍色のジャケットを羽織い、ジャケットと同じく藍色のジーンズにオレンジ色のレディースシューズ姿。
その見た目は服装もそうだが、茶色が混じった黒髪のショートヘアーも相まって体つき以外はジャーニーズにいそうな中性的な顔立ちのイケメン男子のように見える。
「それで?お前のお目当てはあれだろ?」
俺はジェットコースターを指さして言う。
牧野は「そうそうあれだよあれ!」と子供のように喜ぶ。俺にはその喜ぶ顔が悪意に満ちているようにしか見えない。
すると牧野がミレイナさんの方を見て「あれが達也の言ってた彼女?」と言ってきた。
「彼女じゃなくて友達だ!」と俺が言うと牧野は「またまた照れちゃって」とおちょくってくように言ってからそのままの流れでミレイナに自己紹介をする。
「初めまして。あたしは牧野春日。達也の大学時代の友達だよ。よろしくね!」と陽気に答える。
ミレイナは初対面の相手に少し緊張しているのか謙遜するように「あ、初めまして、ミレイナです」と言ってペコリと軽く頭を下げる。
そしてお互いの自己紹介が終わるなり、俺は早速トラウマであるサンダードルフィンに乗ることなった。
ジェットコースターの乗り場に並び係員の人から順番に座席番号の書かれたカードを受け取ってそれぞれ座席に座る。
安全ベルトで体が固定され、スタートを待つ。
俺は内心逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、約束してしてしまったからにはしょうがない。というか、安全ベルトという拘束具でしっかりと固定させてしまっているので今更逃げ出すなんてことは不可能なのだが。
スタートの合図と同時にゆっくりとコースターがカタカタと不穏な音を立てながら頂上へと登っていく……。
頂上に到達した後コースターは不自然に停車。後ろへ振り返ると不安げなミレイナさんの後ろで「観念しなさい!」と言うかのように牧野は俺を見てニヤニヤと不敵な笑みをを浮かべている。
本当に人をおちょくるのが好きなやつだなぁ…と呆れてため息をつき前に向き直った瞬間……。
弾かれたかのようにジェットコースターは急加速し、生き物のような動きをしながら風を切って加速しだした。
後ろの方からは乗客の騒々しいまでの絶叫が聞こえてくる。
俺も何かを叫んでいたかもしれないがあまりの恐怖によく覚えていない。
恐怖の1分30秒間を耐え抜き、スタート地点にコースターが戻ってきたときには俺はもうヘトヘトになっていた。
牧野はご満悦のようで「もう一回乗らない?」とあろうことかおかわりを提案してきたが当然俺はその定安を速攻で却下した。
「いやぁ〜最高だったねぇ。やっぱり遊園地はジェットコースターに限るよ〜」
「たく、2度も乗せようとしやがって」
ジェットコースターを乗り終わった後俺達3人はガレージでそれぞれドリンクを飲みながら休憩していた。
「え〜達也も楽しそうだったよ?」
「楽しくねー!怖すぎて絶叫しまくりでそれどころじゃなかったっつうの!」
「ほぅほぅ、絶叫するほど楽しかったと」
自分の都合よく解釈すんな」
俺は注文したアイスコーヒーを飲みながら牧野にブツブツ文句を言う。
まぁ当の牧野本人に悪びれる様子は欠片もないのだが……。
すると、アイスココアを飲みながらミレイナさんが俺と牧野のほうを見てこう言った。
「私はトテモ楽しかったですよ。こんなに楽しいのなんだか久しぶりです」
ミレイナさんのその言葉を聞くなり「あたしの勝ち!」と言わんばかりに牧野は俺を見て白い歯をだして笑う。
なんと理不尽なのだろう。このときばかりは神を呪った。
すると牧野がミレイナさんを見て言った。
「それにしてもやっぱりロシアとか北欧の女性って綺麗だよね。皆モデルみたいにスタイルいいし、色白だし……羨ましいよ〜」
言われた方のミレイナさんは少し照れくさそうに頬を赤らめて笑顔で牧野に答える。
「ありがとうゴザイマス。でも私なんて母国のロシアではごくご平均的な顔立ちですし、私より背が高くてスタイルがいい子なんて沢山いますから」
「そうなの〜信じられない。あたしも外国に移住すれば色白美人になれるかなぁ……」
日本人と外国人では身体のつくりも違うのにむちゃくちゃなことを言うやつだ。
「あ、そうだ!忘れちゃうとあれだからLINE交換しない?」
「はい!いいですヨ」
「ありがとうー!まさか外国の人の友達ができるとは思ってなかったよ〜」
ガールズトークに盛り上がる2人の様子を見ながら俺は残りのアイスコーヒーをグッと飲み干した。
その後散策がてらゲーセンに立ち寄ったり、お土産屋をみたりして時間を潰した。
楽しい時間というのはあっという間に過ぎるもので、腕時計に目をやると時刻は17時を過ぎ、夕暮れで空は茜色に染まっていた。
周りを見渡すとまだ残っている人たちもいるが多くは遊園地を後にしようと出口の方へ足を進めている。
「それじゃ、あたしは帰るね。明日バイトだからさぁ」
そう牧野は俺とミレイナさんに言うと、クルッと背中を向けて右手をヒラヒラと振りながら去っていった。
ちょっとウザい奴だけど、居なくなると少し寂しい気持ちになる。
残された俺とミレイナさんはお互い顔を見合わせる。
「帰ろうか。疲れたし」
そうですね。帰りましょう」
体には嘘はつけないお互いクタクタだ。
俺とミレイナさんはタクシーで駅前まで向かい。電車のホームで別れた。
その日の夜ミレイナさんからLINEが届いた。
内容は今日のお礼だった。
ミレイナ『今日はありがとう。タツヤのお陰で沢山楽しめた。後マキノさんもとっても優しい人でした。また機会があったら皆で遊びましょう😊』
俺もお礼のLINEを送る。
達也『こちらこそ。楽しかった。ありがとう!』
そしてLINEのアプリを閉じベットに横になる。
牧野からの理不尽な条件はあったもののプチデートのような体験ができたことに俺自身は少しだけ満足感を感じていた。
to be continued
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