ゆらり金魚

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次の日、学校に行くとまあちゃんが落ち込んだ顔をしていた。 理由をきくと、飼っていた金魚が死んだと教えてくれた。 どきっ、とした。 でも話しかたから、ばれていないとわかる。 まあちゃんにも神社の白い金魚のことを教えてあげようか。 金魚が目の中で横切る。 もし、まあちゃんも目で飼うことができたら? わたしだけの特別じゃなくなるかもしれない。 そんなのつまらない。 わたしは唇をかみしめた。 まあちゃんの目を見ながら、可哀想だね、とだけ返した。 授業中も金魚を眺めていた。 ノートの文字を囲うように泳いでいる。 まぶたをとじる。 暗くなった視界の中でも、金魚が泳ぐのが見える。 これで触れて、撫でることもできたら最高なのに、それができないことだけが残念だ。 いつもならば放課後の教室で、まあちゃんと一緒におしゃべりをする。 でも今日は、行きたい場所がある。神社だ。 まあちゃんがなにか言っているけれど、わたしはランドセルを背負って早足で教室からでた。 別に神社は逃げるわけじゃない。 それでも心は急ぐ。早く早く、って。 鳥居をくぐるときも、神社の中を走っているときも最初に感じた怖さというものはなくなっていた。 今日も風が強いな、って思うくらい。 池まで行くと、のぞきこむ。 昨日から考えていた。 右目の金魚だけじゃ可哀想だから、仲間を作ってあげたいと。 わたしは水面に手を浸すと、一ぴきの金魚に狙いを定めた。   水面が昨日以上に揺れている。 それでもなんとかつかまえることに成功した。 今度はどっちの目にしようか。 迷ったけれど、左目にいれることにした。 両方の目で金魚を眺めるなんて。 なんて素敵なことだろう。 右目のときと同じように、金魚は大きさを合わせて目にはいる。 満足して、わたしは神社から家へと帰った。
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