燕雀鳳を産まず、鳳も亦燕雀を産まず

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「そうだね、オジさんの話も聞いて欲しいな」  うっわ〜、そう来るの? めんどくさっ。 「ただ毎日同じ電車で通勤する退屈な日々のなか、いつもひとりで登校する女の子が居たんだよ」 「最初はただそれだけだったね。『どこかのお嬢様が降りた駅の先の学校に入学したんだろう』以上には思わなかった」 「それがだんだんとね、目の保養を楽しむようになった。ある日道端に見つけた花の蕾が日に日に開いていくさまは、毎日の密かな楽しみだった」  気づかなかったな。そんな前からジロジロ見られていたなんて。 「その可愛らしい花は、なぜかいつも俯いていた」 「学生のあいだなんて、色んなことに興味を持って色んなことを知って色んなことに感動していく楽しい時間のはずなのに」  ハイハイ普通はね。 「同時にそれは、理性と葛藤する日々でもあった。その女の子は日に日に大人に成長していく。女になっていく。だんだん情欲をそそられる」  キっっモ。 「犯罪に走ってしまわぬよう、車両や便を変えたりもした」 「ただ、あの可愛らしくも物憂げな顔を忘れることは出来なかった」  性犯罪者の自供みたい。みたいじゃなくて、そうなんだけど。 「ラクに、なりたかった。捕まってもいいから、この葛藤から開放されたかった」  物好き。 「ある日試しに触ってみたら、全く抵抗されなかった。その日からは、止められなかった」 「そして今日という日が来たわけだ。腕を掴まれたその瞬間、『やっとラクになれるんだ』と思ったよ」  口ばっかり。さっき「これで許してください」って財布丸ごと差し出したのはどこの誰なの。 「あらかじめ覚悟はしていたことだしね、オジさんは捕まってもいい。ただひとつだけ、どうしても我慢できないことがある」 「やっぱりエッチしたい?」 「違うよ。オジさんをそこまでの気にさせた女を、『ただ名門校の制服着てるだけのブス』呼ばわりされたのが気に食わないんだ」  だって、事実じゃん。本人がそう言ってるんだよ。 「白々しいよ。どうせわたしは、『他人より勉強してるだけのバカでブス』だよ。  オジさんは、ロリコンだから制服にムラっときたんだよ! そんなの、わたしみたいなバカでもわかるんだから!」 「誰に、そんなこと言われたの?」  血走った目で問い詰められた。さっきまで、何言われてもそんな顔はしなかったのに。 「お母さん。わたし、毎日お母さん(あのクソババア)に言われてるから。『あなたは可愛くもなければ運動もできないの! そんなあなたでも世間様に恥ずかしくないように毎日勉強しなさい!』って」  オジさんにぎゅっと抱きしめられた。頭を撫でつけられた。髪に涙と鼻水がついた。 「そんなの間違ってるよ。自分の娘にそんなこと、言っちゃいけないよ。  まして、こんな魅力的な女性にそんな嘘を言うなんて」  オジさんの身体はもう震えてなかった。かわりに熱を帯びていた。 「……オトナって、穏便に済ませるために仮面も被るし平気でウソもつく生きものだよね。信用ならないよ」 「男のこれは、自分の意思で抑えられないし自分の意思では勃てられないよ」  オジさんは汚いところを指差した。 「さっきオジさんのこれはね、裸のきみを見て大きくなったんだよ」 「そして、挿れかけたときに感極まって出しちゃったんだ。そこに関して、ウソつけないよ」  どくんどくんと、心臓が脈打つ。恥ずかしいところがむず痒い。 「オジさん、また大きくなってるよ」 「恥ずかしいな、このとおりだ。思い出したらこうなっちゃった」  なぜだかせずにはいられない。 「オジさん……、やっぱりシよ」 「惚れた女を、お先真っ暗にはできないよ」  オジさんの顔が冷静になる。 「女の初めてって、大事なんだよ。わたし、捧げる相手はオジさんがいいな」 「わかった。でも、ゴムは着けるよ」 「うん。でも手早く着けてね」 「オジさん、またあっという間だったね」  オジさんは、今度はかろうじてなかでゴムのなかに出した。何回か往復しただけだった。 「これじゃ気持ちよくなれなかったよね?」 「いいよ。ただ痛いだけだったから早く終わってほしかった」  事実を一部だけ伝えた。真剣な顔が必死になって、申し訳なさそうな顔に変わっていって面白かったとは伝えなかった。 「そうか……」  捨てられた子犬みたいな顔になっちゃった。カワイイ。 「ホントにさ、オジさん変態だよね。こんな可愛くもない運動もできないカラダ、そんなによかった?」  今度はやれやれといった顔になった。ずいぶん表情豊かだね。 「まだ言うんだ。その話、友達とかにはしたの?」  オジさんキモい。その辺の勘がニブいから童貞だったんだよ。 「……誰にも。友達とか、居るわけないじゃん。今日だって、早過ぎず遅過ぎずいつも通りの時間に帰らないと、たぶんものすっごくめんどくさいことなるもん。  そんななかで、友達付き合いとかできるわけないじゃん」  オジさんがより一層真面目そうな顔になった。 「出来れば、今週末また会えない?」  あ、それでキメ顔してたの。弱みを握って女をオトすのって定番だもんね。 「オジさんは日を改めてまたしたくなっちゃった。出来れば、他のことも」  ふーーん、そこは一切隠さないんだね。 「いいよ。でもどうするの? わたし携帯持ってないよ?」  暇つぶしには悪くない。どうせ失って惜しいものなんて何もない。
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