燕雀鳳を産まず、鳳も亦燕雀を産まず

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「いいよ。でもどうするの? わたし携帯持ってないよ?」  暇つぶしには悪くない。どうせ失って惜しいものなんて何もない。 「これに、電話してくれ。日曜は一日空けとく。なるべく出るが、出れなかったら留守電入れてくれ。  もし気が乗らなかったら、そのときは何もしなくていい」  番号の書かれたメモ紙を手渡された。 「これを持って警察に行けばいいの?」 「そうしたければそうしていいよ。ただ、出来ればそうはしないで欲しい」 「わかったよ、オジさん。片付けはオジさんがよろしくね」  わたしは服を着てホテルを出た。たぶんいまのわたしからはオジさんの加齢臭がしているはずだ。  お母さん(あのクソババア)に気づかれても、匂わせつつもしらばっくれてやる。  お母さん(クソババア)、今日わたしは男に求められるがままに最後までしました。 「ただいま」 「あれだけのコト言っといて無事じゃない。わかった? あなたは勉強するしかないの」  ああ、バラしてしまいたい。でもオジさん(あの変態)で遊びたい。 「はいはい。汗かいちゃったから、先にシャワー浴びてくる」  服を脱ぐと、洗面台の鏡がわたしの裸を映した。オジさんの言葉と貪る顔と、大きい状態をみた場所を思い出した。へーぇ。ふーん。ほーん。  ご飯を食べ終え、部屋に戻った。お母さんの「勉強しなさい」は、「黙って部屋に籠もっていなさい」だ。  お母さんは、なにも見てない。成績の管理も実際にはお父さんがだ。 「勉強させればそれでいい」  それがお母さん(あのクソババア)の子育てだ。  週末になった。駅の公衆電話からメモ紙の番号に電話すると、オジさんはすぐに出た。 「お、電話かけてくれてありがとう。早速だけど、この前の駅の改札口のまえで待っててもらえるかな? こっちもすぐ行くから」 「あはは、オジさんがっつき過ぎ。制服着てくるからちょっと待ってて」 「そんな余計なコト考えなくていいよ。オジさんが変態みたいじゃないか」  オジさんってもしかして、自分が性犯罪者だって自覚してないのかな。 「変態じゃん、ロリコン」 「とにかくこの前の駅の改札口にね。行く先は車のなかで説明するよ」  わたし、私服はお母さんがスーパーで買った服しか持ってないんだけど。  駅から出たところでコーヒー牛乳を飲みながら待ってると、洒落っ気のないコンパクトカーがやってきた。  休日午前の半端な駅の、がらんとしたロータリー。オジさん以外はタクシーだけで、実にわかりやすかった。 「ごめん、待った?」 「ううん、がっつき過ぎて引いてる」 「そっか、立たせたままもなんだから助手席乗ってよ」  促されるまま助手席に乗った。意外ときれいに片付いていた。 「いまの子は朝強くないって聞いたけど」  現在時刻は午前9時半。朝起きて、ご飯食べたあとすることがなかった。 「遅くなると面倒だから。どうせオジさんは早いから考えなくても大丈夫とも思ったけど」 「そっか、あまり遅くならないほうがいいよね。でも、もしかしたら店が開くまえに着いちゃうかも」  え? 店? 「どこ行くの?」 「郊外のショッピングモールだよ。なんでもあって、楽しいよ」  ふーん、そうなの。 「なんでもって、例えば?」 「……下着とか」  ふーーん。変態。  着いた。時刻は10時まえ。開店は10時。駐車場で開店を待つ。 「普段なにして遊んでるの?」  きたよ話題に困ってプライバシー侵害。 「大したことしてないよ。勉強するつもりしながら図書室で借りた本読んだりとか」 「そっか、ゲームとかは?」 「あまり勉強に関係ないモノを部屋に置き過ぎると没収されます! 残念でした!」  だから他所へは行かないんだ。心の平静を保つ唯一の手段が、好奇心を殺して余計な興味を持たないことだったから。 「そっか、ごめんけど今日いち日オジさんが身勝手に振り回すから。ゴメンね」  慣れてる。諦めてる。そんなの、大人はみんなじゃん。  お父さんは仕事のジャマになる家庭のコトを全部お母さんに押しつけて、お母さんは見栄を張り続けたいから子供に勉強だけさせて。  そんなのオジさんだけじゃないから、いちいち謝らなくていい。 「ごめん、やっぱり勇気が要る」  開店後オジさんは真っ先にランジェリーショップに向かい、イモを引いて踵を返した。  変態なのにヘタレなのが、実にオジさんらしかった。    向かった先はおもちゃ屋さん。他人の話、ちゃんと聞いてた? 変なの買っても家に置けない。 「オジさんこういうのに目がないんだ」  他には一切脇目も振らず一直線にプラモのほうへ。潔さが、清々しい。 「このロボットの話が好きでね」  架空の世界の作り話を、理路整然と語りだす。悪くない。どうでもいいから気楽に聞ける。 「で、オジさん今日はどれ買うの?」 「買わないよ。家に何個も積んである。買ったはいいが、なかなか作りきれないんだ」  わたしも将来そうなるのかな? 変に余計に興味を持って、欲求不満をこじらせて、大人になって金はあっても楽しむヒマはロクにない。  聞いた話の具現化が、いま目のまえに存在する。 「きみも、なにか見ていくかい?」  見たくない。知りたくない。どうせ没収されるものなんて、買いたくなんかなりたくない。 「オジさん、家が門限にうるさいからはやく射精してよ」 「わかったよ。ちょうど考えがまとまったところだ。今からこれで、自分の気に入った下着を上下そこで買ってきてくれないかな」  万札2枚を手渡され、さっきの店に促された。
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