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「オジさん、家が門限にうるさいからはやく射精してよ」
「わかったよ。ちょうど考えがまとまったところだ。今からこれで、自分の気に入った下着を上下そこで買ってきてくれないかな」
万札2枚を手渡され、さっきの店に促された。
「オジさんは座って待ってるから、店員さんとゆっくり選んでくれていい。
お釣りは返してね」
オジさんは缶コーヒーを買い、備え付けの椅子にもたれかかってスマホを見だした。
「スポーツブラじゃ色気がないから今日はそれ着けろってこと?」
「そんな感じかな。ちゃんとフィッティングとかしてもらってね」
恥ずかしかった。普段着けてるサイズを買おうとしたら、試着させられ結局上を全部脱がさせられた。
サイズが全然合ってない、特にトップが小さ過ぎて胸が圧迫されてるって。確かに言われたサイズは苦しくなくて、なおかつだぼつく様子もなかった。
いちばん安いセットアップを買ってやった。店員さん、手間暇かけてザマーミロ、色っぽいのを期待しただろうオジさんもまたザマーミロ。
わたしには、安い下着がお似合いだ。
「お、終わったか。だいぶ残ったみたいだね」
オジさんがスマホをしまい、ランジェリーショップからまっすぐ来たわたしから裸銭のお釣りを受け取る。
「3000円もあれば足りたよ」
周りからどう見られているだろう。もしやましいものを想像してたら、それが正解なんだよね。
「そっか。たこ焼き買ったらここ出ようか」
「たこ焼き?」
「オジさんここに店出してるとこのたこ焼きが好きでね。あまり下着屋の紙袋持った女の子連れてウロつきたくないが、それだけちょっと買わせてくれ」
「それならオジさんの車覚えてるから先に戻るよ」
オジさんがメモ帳をちぎりペンでいろいろ書きだした。
「この階のこのアルファベットの区画のこの番号のところに駐めてるこのナンバーだから。もしわからなかったら、エレベーターのところで待ってて」
「わかった」
わたしはメモ紙とスマートキーを受け取った。
オジさんがたこ焼きを持って乗り込んできた。
「お待たせ。悪いね、けっこう並んでた」
「べつにいいよ」
こんなときにスマホが羨ましくなる。尤も、「こんなとき」が存在しない人生だったんだけど。
「食べなよ、美味しいから」
気乗りしなかったが食べてやった。オジさんね、こういうのって、自分で選んだものじゃないとイラっとくるんだよ。
わたしはそう親戚にイラつかされてきたし、デートしたことのないオジさんも昔そうだったんじゃない?
「うまかっただろ?」
「そうだね」
社交辞令を伝えたのちに口にソースと青海苔をつけたままのオジさんを見て、ナプキンで念入りに口を拭いた。
オジさん、わたしが化粧しない人でよかったね。化粧に力入れてる人なら怒ってたよ。
「そろそろ済ませてくれるよね?」
「悪いな、オジさんまだ行きたいところがあるんだ」
長い。だるい。
着いた先はどこにでもあるスーパーだった。
「さっき買ったブラ見せて」
オジさん、そういう趣味?
「ここで脱ぐの?」
「着けてたのか」
「店員さんに、『サイズの合うの着けてないと形が崩れるよ』って言われて」
「そうか、なら説明は簡単でいいな」
どういうこと?
「きみの話が本当なら、その下着は着けて帰れないだろ? でもこの前着けてた下着は身体によろしくなさそうだから、ありきたりなスーパーの洒落っ気のないサイズの合った下着着けて帰ってもらおうかなと思ってね」
そんなこと考えてたんだ。
「じゃ、この下着買う必要あった?」
「ちゃんとしたところでそういうの買わないと正確なサイズを測ってもらえないだろ?」
そんなこと考えてたんだ。
「それだけ? じゃあもうこれはゴミ?」
「オジさんが『使う』よ。多くは聞かないでね」
「ヘンタイ。じゃ、わたしが買ってくるよ。オジさん、お金ちょうだい」
「わかった。今度は間違っても変なの買わないでよ」
わたしは車から降り、トイレでサイズを見てからブラとついでのものを買ってきた。
「お待たせ。オジさん、これ食べよ」
わたしは割ったパピコの片方を手渡した。
「さっきたこ焼き食べたばかりだろ」
「甘い物は別腹。オジさんだって、有無を言わさず買ってきたじゃん」
オジさんはしぶしぶ受け取ってパピコに口をつけた。お返しだよ、ザマーミロ。
「オジさん、なんだかデートみたいだね」
「違ったのかよ」
「ありきたりなスーパーで、しみったれた車のなかで100円もしないアイスをふたりで食べるって、これからホテルで性犯罪するわたしたちにお似合いじゃん」
「そうだね」
オジさんがまんざらでもない顔になった。自分が顔に出したくない表情って、相手にさせると気がラクだよね。
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