心臓、れいぞうこのなか(11)

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心臓、れいぞうこのなか(11)

 お姉ちゃんはバニラの香りが好きだ。お姉ちゃんの食べ残したアイスが食べたい。お姉ちゃんと一緒にマニキュアを選びたい。お姉ちゃんに夕ご飯を作ってあげたい。  膝枕をしてくれているお姉ちゃんのストッキングが伝線している。  なんだか可愛らしく感じて、喉の奥がくすぐったくなる。  そこに指を入れて爪でひっかくと、触り心地がいい。  何も話さない。静かな時間。しばらく、サラサラと摩って遊んだ。ひっかき傷、ワタシの、赤い線にまるく点々と珠が増えて行く。  おやすみなさい、おはよう、お姉ちゃん、ワタシはもう、無理なの。そしてね、やっぱりとうとうダメで、それで。仕方なく冷蔵庫に詰めてきた。  シンクに置きっぱなしのお皿を洗う。泡立たないスポンジに苦笑して、学校の帰りに新しいのを選んできた。  カーテンを閉める、開ける、ドアを開ける、閉める、唇を舌でこじ開ける、口角で閉める、噛む、噛みついて啄む。  ガチリ、と歯と歯がぶつかる。お姉ちゃんは呆れて、とっとと行け、とワタシを追い払う。  学校や、買い物や、明日へと。
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