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心臓、れいぞうこのなか(12)
狭いお風呂場で裸になったワタシの背中に温かいお湯をかけてくれる。柔らかな手のひらで心臓の裏側を撫でる。
わぁ、ぬくい。本当に、あったかい。これって生きてるから。
「ワタシ生きてるわ」
「あんた、知らなかったの」
くだらないわねと笑う。お姉ちゃんは笑う。いつも笑う。かったるそうに、面倒くさそうに笑う。すきだよ、お姉ちゃん好き。好きなんだ。お姉ちゃんのものも好きだ。
その、アイシャドウを落としたら、煙草の煙みたいな色になってしまう目元も、海の底の淀みのようなくしゃくしゃな真っ黒な髪も、全部ほしい。
ワタシお姉ちゃんのようになりたいわ。
汚れた体を洗ってくれる細い手、捲り上げて玉に縛ったワンピースの裾が腹までめくれて下着が見えているのに、一生懸命ワタシについた嫌な色を落としてくれる。やさしいひとだ。ワタシが買った食器洗い用のスポンジ詰め合わせ。みっつめを、ビニールの袋を千切って乱暴に取り出す。
ワタシとお姉ちゃんのお部屋。古い冷蔵庫の大きなモーター音。氷が冷えてる、小さく振動してる、しん、しん、と。どん、どどん、どん、からからからからからから。花火のようだなと思う。いつか一緒に見てみたいなと思う。ありきたりな夢をいくつも並べる。
目を閉じたら寒さに凍えて眠ってしまえないだろうか。
お姉ちゃんがお財布からお札のお金を全部取り出してワタシに渡す。
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