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心臓、れいぞうこのなか(3)
物心ついた頃からワタシが住んでいた団地の六階。
見渡す景色は、いつも同じ。
他に背の高い建物が何もないものだからほとんど田んぼと空だけだった。
お隣さんはとても顔立ちの整った美しいお姉さんで、皆が勝手に色々な噂を立ててはひそひそと意地悪く楽しむものだから、そんな様子を見ては子供なりにげんなりとしたものだ。
踊り場や近所の道端で会えば明るく挨拶をしてくれる、朗らかなお姉さん。
ワタシは、その真っ黒なセミロングの髪をふわふわにする為、上手にコテで巻いている後ろ姿を眺めるのが好きだった。
大和撫子から、艶やかな見た目へ変身しても、ご近所さんにはいつも低姿勢だった。
その癖、ワタシがお部屋に遊びに行くと、アイスを買ってきてだの、水を汲んできてだのとワガママを言うのだ。
年上のミステリアスな女性に甘えられているのだと思うと、ワタシの自尊心は満たされ、なんとも面映ゆい心持になった。
素敵な人の面倒を見てあげる、と言うのは特別な感じがするじゃないか。
手下のように使われて、侮られているだけなのだと、母はよくお姉さんを悪く言ったが、ワタシが部屋にいない方が都合がいい日もあったのだろう。
「あの娘は頭がおかしいんじゃないの」と言いつつも、ワタシをよく隣に預けた。
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