心臓、れいぞうこのなか(4)

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心臓、れいぞうこのなか(4)

 頭がおかしい。阿婆擦れ。薬中。社会不適合者。自堕落でみっともない人間のクズ。  どこが?あんな綺麗な人を、それも、ワタシの預け先に選んでいる相手に、そこまで言うなんて。  母はひどい。母がおかしい。  お姉さんが貶されるたびにワタシはじっとりと押し黙り、絶対に口には出せないことばかりを考えていた。  お前の方がよっぽど異常だろうよ。  母はワタシの部屋のごみ箱を毎日チェックする。  一時間に一回、二回、一日に、ワタシがいない時間は何度でも。  机の引き出しも服のポケットも、カバンの中も財布もレシートも全てチャックする。  毎日毎日毎日、14年間毎日こうしてきたのだろう。  歯ブラシは二日で新しいものへと変わる。  トイレの掃除がやたらと多い。  まだ若いはずの母の手はあかぎれだらけで、しわくちゃのおばあさんのようだ。  それが良い母なのだと周りは言った。貴方を気にしているのだと。  嬉しいことでしょう、よかったわね、と。  つまり、捨てられないと言うのは有難いことなのだ、当たり前のことではない。  そうしてワタシたちを捨てていった者がいるのだと、その証拠を時折みな、わざわざワタシたち親子に見せつけた。  そんな中よくもまぁ何の疑問も感じさせぬようにワタシを育てたものだと思う。拍手喝采。自分の愚かさと無知に万歳。
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