心臓、れいぞうこのなか(9)

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心臓、れいぞうこのなか(9)

 窓から見えるのは、川辺に沿って植えられた桜の木の行列。でっかい道路に向かって、だいぶ長い列を作って順番待ちをしている。田舎の学校だ。校庭はどこまでも広い。  こんなに遊べないよ。  もう子供たちは、どんな遊びをしたらいいのか誰にもわからない。  お姉ちゃんもこの学校に通ったのだろうか。  制服姿はどうだったろう。まだ持っていたら、見せてもらうことはできないだろうか。  部活は何をやっていたのだろう。吹奏楽など似合いそうだ。ぽってりとした太ももは、スポーツをしていたようには見えないからきっと文化部だったのではないだろうか。  スカートの似合う、滑らかでまんまるな膝小僧にはいつも瘡蓋。  はやく会いたい。お姉ちゃんがすきよ。ワタシ、お姉ちゃんがすき。  いつもなら帰宅したらすぐに隣のお部屋へ向かう。  母はもう何も言わなくなっていた。ざまぁみろとも、申し訳ないとも思わない。おまえは負けたのだから、ワタシは支配されない。  もう憎しみにすら、嫌悪にすら値しない。教科書を持って行く必要もない。ただ、家を出る時に、キッチンのごみ箱が生ごみでいっぱいになっているのを見て、ごめんね、と高慢にも呟いた。  すごくすっきりした。  あんなもん、もう食わなくてもいいんだと、もう食わねぇよ、と言ってやったような気分になった。  そんな響きを含んでいたのだろう。バレてはいけなかったのだと思う。  きっとワタシは、いつまでも赤ん坊のふりをしていなければいけなかったのだ。  母が飼っていたのはワタシではなかった。ワタシを壊す為のいい方法だ。そいつをずっと飼って餌をやって育ててたんだ。
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