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心中ごっこ
「閉めて来なよ」と親友が言って、私と一緒に台所まで来ると、冷蔵庫の前にしゃがみこむ。
酒を入れてあった野菜室のドアを閉めるとけたたましい警告音は無事にやみ、それを見届けた親友は冷たい冷蔵庫の扉にコツン、と額をくっつけた。
そして一言、「腹減った」と小さく呟く。
それを聞いて、私はひどく酔いの回ったまんまの頭で、こいつにだったらなんでも好きなもんを腹いっぱい食わしてやりたいなあ、と思って、何故だか泣き出してしまいそうになった。
じわじわと涙の膜が瞳を覆って行くのを、目を逸らすとぐっと我慢した。
「じゃあ、何か作ろっか」
「なに作れんの」
「チャーハンとか、そんくらいなら、多分」
「本当に、作ったことあるの?」
「あるし」
そうして居間に戻ると、親友はテーブルの上に乗っかっていたチラシを何事もなかったかのような素振りで拾ってくしゃくしゃに丸めて、ゴミ箱に捨ててしまう。
私も酔いでフラフラしつつ、痛み止めやら風邪薬やらの箱を拾うと、薬局でもらった救急箱にポイポイと戻す。
その救急箱をもとあった棚の上に戻しに行く途中、再び座り込んで酒を飲みだした親友のつむじに、体を折ってちゅ、とキスをした。
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