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____「お疲れさま」
「お疲れさまです!」
久しぶりに彼女とまったり屋で飲むことができて、冗談抜きに涙が出そうになる。
隣に密着しているしおりは未だに初々しく真っ赤になり、可愛いことこの上ない。
今まで頑張ってきた最高のご褒美を得た気分だ。
「今日はしおりに助けられちゃったな」
「そ、そんな」
なんというか、瞬きするのも惜しいな。
久々に至近距離で見つめることのできる愛らしさは、破壊力が凄まじかった。
「……しおりのおかげで、購買部の皆とも信頼関係が築けた。正直そういうのとっくに諦めてたけど、久しぶりに働く上で一番大切なものを思い出せた気がする」
「課長……」
あの日、この場所でしおりとばったり会っていなかったら。
そう思うとゾッとする。
いや、違うな。
例えどんな道筋を辿っていたとしても、きっと俺は彼女に惚れていた。
「そう言えば、やっと正式に出向が決まった」
いよいよだ。
ごくりと固唾を呑み込んで、真剣にしおりを見つめた。
「そうですか……」
寂しげに俯き視線をグラスに落とす横顔すら綺麗で、しばらく見惚れそうになる自分をたしなめる。
「汐見コーポレーションに決まった」
「汐見コーポレーション……」
目を見開く彼女。
「今よりもだいぶ給与は上がるだろうし、戻ってきた時の昇進も約束されてるから」
しおりの表情はパッと明るく華やぎ、涙を浮かべて喜んでくれる。
「おめでとうございます!きっと課長なら、新しい職場でも力を存分に発揮されると思います!」
しおりらしい祝いの言葉に、心はじんわりと温もりを帯びていく。
「私も購買部で、自分のできることを丁寧に、精一杯尽力します!」
そう言って勢いよくグラスを上げる彼女に、我慢できずに鞄から小箱を取り出した。
「課長……」
きょとんとする彼女に、そっと
箱を差し出す。
「少し性急だとは思うけど、受け取って欲しい」
しおりは目を見開き、俺の手に収まるそれを見つめていた。
「これって……」
「俺と結婚して下さい」
ついに告げることができた言葉に、今更になって恥ずかしさが襲った。
まさか俺がこんな台詞を言う日が来るとは。
流石にしおりを直視できない。
しかしいくら待っても、彼女の手はこちらへ伸びてはこなかった。
「………………」
恐る恐る確認すると、一点を見つめてフリーズしているしおり。
その表情は無というか、とても喜んでいるようには思えない。
……やっぱり早すぎた?
「しおり!?いや、早すぎるっていうのはわかるけど!時期はしおりのタイミングを待つから。……婚約って形で、貰ってくれないかな?」
自分の焦りぶりが滑稽すぎる。
これで断られたら、流石に立ち直れないかもしれない。
半ば強引に指輪を取り出し、彼女の可愛い薬指に通した。
……ぴったりだ。
心の中で敦子さんに手を合わせる。
しおりは黙って指輪を見つめながら、じわじわと涙を溢れさせた。
「この前も言ったけど、俺独占欲強いんだ。俺がいるって印、いつも身につけていて欲しくて」
受け取ってもらえますように。
そう神に祈るしかない。
しおりは涙を拭って、ようやく俺に天使の微笑みをくれた。
「ありがとう……ございます。まだ信じられません。……こんなご褒美、夢みたいです」
泣きながら笑うしおりが愛しくて、柔らかい髪をそっと撫でる。
「俺の方こそ」
どうにか断られずに済んだことに、心底安堵する。
「じゃあ、今夜は久しぶりに俺もご褒美貰おうかな?」
照れ隠しに戯けると、彼女は真に受けて真っ赤になった。
そうなると、もう冗談のままにしておけないな。
「俺の家で飲み直そうか」
彼女の細い肩を抱き、耳元で思わせぶりに囁いた。
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