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■プロローグ
ゴーゴーと潮風が吹き荒れ、私の決死の告白はあっという間に遠くへと吹き飛ばされていく。
視線の先に広がるのは、果てしなく続く淡い青空。すごく遠い場所でトンビが二羽、気持ちよさそうに飛び回っている。
「今、なんて?」
案の定、隣で座っていた達樹は波の音と暴風によって聞こえていなかったらしい。
寝ころんだ態勢のまま振り向くと、いつもどおり人懐っこい笑顔を浮かべて、私の瞳をジッと見つめていた。
「彼氏とした」
サラリと告げると、達樹は一瞬時が止まったように目を見張った。
傷つけた、認識して間もなく彼は口元をほころばせる。
「そっか……おめでとう、結衣」
「ありがとう」
私は手を伸ばし暴風のせいでぐちゃぐちゃになった彼の髪を掻き上げて、小さい頃のように整えてあげる。
露になった大きな瞳は反射した水面にキラキラと揺れ、宝石みたいに美しかった。
達樹。あなたとはそれ以上、それ以下の関係になることはない。
こんなズルイ私のことなんて、とっとと嫌いになって――。
予防線を張るように、私は彼の寂しげな笑顔を見てそっと目を細めた。
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