終焉

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「どうして翼くんと一緒になんて、愚問なことを聞くのね。見てわかるでしょ?」  クスクス笑った美羽先輩のこめかみに、翼くんがキスをした。甘い衝撃を受けて美羽先輩が上目遣いで翼くんを見、「もう、翼ったら」なんて言って頬を染める。 「春菜さん、僕には彼女がいるって言いましたよね?」 「言った、けど。でもそれが私の知ってる、美羽先輩だとは思わないよ!」  春菜の大きな声が、室内に響いた。いろんなことがショックで動けずにいる私に、翼くんの冷たいまなざしが突き刺さる。 「美羽が彼女だと知らなくても、春菜さんは僕の家に、盗聴器を仕掛けたんですよね?」  ジーンズのポケットから、小さいビニール袋を取り出す。その中には、テレビ台の裏に仕掛けた盗聴器が入っていた。 「春菜じゃない、そんなの知らない!」 「翼、テレビで見せてあげたら。ちょうど真正面にいるわけだし」 「わかった、美羽はそこにいて」  腰に触れていた手で美羽先輩の頭を撫でてから、春菜の傍にやって来た翼くん。春菜にはまったく目もくれずに、テレビ台になにかを取り付け、電源を入れる。  大画面に映し出されたそれは――。 「嘘……」  翼くんに留守番を頼まれたあのときの様子が、テレビの画面にハッキリと映し出されたことで、あのときの出来事を撮影されたのがわかり、まったく言葉が出なかった。一気に全身の血の気が引いていく。  シラを切ったのが無になるそれに、体がブルブル震えた。大画面では春菜がテレビ台を移動して、屈みながらなにかを取りつけているのが明らかにされたせいで、さっきのように言い逃れができなくなった。 『くふふっ、人妻の春菜に夢中になる翼くん、かわいいんだから♡』  そんなセリフも、馬鹿らしく聞こえる始末。あまりのことに、頭の中が真っ白になっていく。そんな私に、美羽先輩が優しい口調で問いかける。 「春菜さん、このあとクローゼットを勝手に開けて、なにをしたんでしたっけ?」 「うっ!」  この家で、翼くんのシャツの匂いを嗅ぎながら、イってしまったのも撮影されたことを知り、恥ずかしさのあまりに顔を伏せて、赤くなっているのを隠す。 「翼、見たくないから停めて。かわいそすぎるとかそんなんじゃなく、これ以上の犯罪行為を見たくないのよね」  美羽先輩のセリフを聞いて、すぐさまテレビの電源を落とした翼くん。 「犯罪行為?」  目の前を通り過ぎる彼をちゃっかり見ながら、なんのことを言ってるのかわからなくて、顔を伏せたまま上目遣いで美羽先輩を眺める。相変わらず体の震えがとまらない。 「貴女、わかっていないの? 盗聴器を仕掛けているのもそうだし、こうして勝手に不法侵入していることを含めて、春菜さんは翼のストーカーになっているってことなのよ」 「春菜が翼くんのストーカー?」 「そうよ、れっきとした付きまとい。貴女を信じると言った、翼の気持ちを踏みにじる行為をしたわよね?」 「違う! 春菜は翼くんのただの友達だもん。付きまといなんてしてない!」  顔をしっかりあげながら、お腹から大きな声を出して否定した。ストーカーなんてしたつもりはないし、やってもいない。 「翼、ラインの数はどうだった?」  美羽先輩の隣に並んだ翼くんは、スマホを手に取って、頬を寄せながら彼女にそれを見せる。互いの顔の近さが心の距離を示しているように感じてしまい、悔しさに奥歯をぎゅっと噛みしめた。 「最初は一桁だったけど、最近はスタンプを含めて50以上」 「春菜さん、目に見える形でこれだけ送信してるって、おかしいとは思わないの? 友達同士でも、こんな数のやり取りはしないわよ」  半日以上返信のない翼くん。それが寂しくて、つい何度もラインを送ってしまった。たくさん送れば、いつか反応が返ってくると思ったから。
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