終焉

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*** 「学くん、やっと終わったね――」  一之瀬さんの指示は、上條春菜を犯罪者に落とし込むことだった。イケメンの学くんを囮に使い、あのコを徹底的に夢中にさせ、ストーカーするように導く。接触中にたくさんの証拠を集めて、警察に突き出すのを目標にした。 『人の大事なものを奪ってきた罪は大きい。そういうヤツだからこそ、警察に捕まえてもらって、今後同じような過ちをさせないことが目的なんだけど。だが、あの女の異常性はちょっとな。正直なところ、警察じゃなくて病院レベル……』  そう言葉を濁した一之瀬さんは、副編集長さんとともに、今回の記事を作った。その下書きを見せてもらったのだけど。 『アナタのすぐ隣にいるかもしれない蜘蛛女、H菜の実態!』なんて大きな見出しがついていて、それだけでもかなり目を引いた。  あのコが人のものを奪うきっかけは大学時代、高校からの親友に初めて付き合った彼氏を奪われたことだった。その後、見事に奪い返した快感が忘れられなくて、手当り次第に略奪しているのではないかと書かれてあった。 (きっかけがなんであれ、悪いことをしてはいけない。だけど復讐に走った私が、そんなことを言える立場じゃないけどね……)  あとは会社側が、あのふたりに賠償請求する。良平さんは間違いなく今の地位から引きずり下ろされ、懲戒免職になるだろうと村田先輩が言ってた。  就業中なのにもかかわらず、社内で何度もおこなわれた卑猥を極める不貞行為に、出張費の不正利用についての処分。同様のことをしている社員の見せしめと、抑制を兼ねているとのことだった。  本来なら、このままジエンドなハズだった。ここからが私が描いたシナリオ――私に性的暴力、学くんには身体的暴力をおこない、就業中の良平さんのパワハラを村田先輩から聞いていたので、間違いなく家庭内でもドメスティック・バイオレンスがおこなわれていることが想像できた。  それゆえに、私は良平さんにあの映像を渡した。あれを見たら良平さんは、あのコに暴力を振るうのは間違いない。私としては互いを潰し合うのに、ちょうどよかった。このことについては、一ノ瀬さんも納得済みである。 「美羽に渡したいものがある」  考えに耽っていた私に話しかけた学くんは、クローゼットを開けて、大きなタッパーを取り出した。一旦テーブルの上に置き、蓋を開けてそれを手にする。 「それは?」  学くんの大きなてのひらの上に、小さなドライフラワーがちょこんとのせられていて、彼の顔とそれを見比べる。 「美羽、あの……」  なにかを言いかけて、少しだけ後ずさった学くん。両手でドライフラワーを持ち直し、腰を落として片膝をつきながら、それを捧げるように私に差し出す。 「小野寺美羽さん、俺と付き合ってくだしゃい!」 「学くん……」  今にも泣き出しそうな顔で告げられた言葉は、彼の気持ちを知らないときに聞いていたら、間違いなく卒倒していただろう。 「ずっと……ずっと美羽のことが好きだった。美羽だけを見てた」  私に差し出す両腕が細かく震えて、大きなてのひらの上にあるドライフラワーが小刻みに揺れる。
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