終焉

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 電話でのやり取りを思い出し、ゲンナリしながら小走りで上條宅に向かっていると。 「成臣くん?」  聞き覚えのある声が耳に届いた。逸る気持ちを抑えながら振り返ると、千草ちゃんが駆け寄りながら話しかける。 「もしかして、上條課長の家に向かってるの?」 「まぁな、ちょっとした用事があって。そっちは?」 「社内で尋問途中に机をひっくり返されて、離脱されたのよ。追いかけようとしたんだけど、うまいこと逃げられちゃって」 「お疲れ様です……」  やるせない顔して怒る彼女になんと言っていいかわからず、ありきたりな言葉を告げた。 「多分、家に帰ってるだろうから、奥さんの分と一緒に出張費の不正利用の請求をしてやろうと思ってね」 「あー、一石二鳥ってヤツですね」  ひとりよりもふたりのほうが、なにかあったときに対処できると判断したので、慌てることなく一緒に上條宅に向かう。自分よりも少しだけ背の低い千草ちゃんと並んで歩きながら、疑問に思ったことを口にした。 「会社でひと暴れした相手の家に行くのに、千草ちゃんひとりなんて、会社側は心配しないんですね?」 「邪魔だから、ついて来るなって言ったの。机をひっくり返されたときも、ほかの男性社員がビビっちゃって、現場であたふたしたせいで、追いかけられなかったのよ」 「へえ……」  同じような現場にいたら、真っ先に腰を引いて逃げると思うのに、勇敢な千草ちゃんを頼もしく思ってしまった。 「出張費の不正利用だって、金庫番が佐々木システムウェーブに引き抜かれたせいなのよ。私が断った腹いせに彼を引き抜くなんて、こっちにどれだけの損失が出るか、あの男はわかってやったのよ!」 「千草ちゃん、ヘッドハンティングされたんだ?」  俺よりも年下なのに、会社でそれなりの地位にいる時点で、彼女が有能なのがわかる。 「されたけど引き抜き先の会社で、やりたいことが見いだせなかった。だから断った。そしたら佐々木って社長が、私が困ることをやらかしてくれたの。あのクソメガネがっ!」  片手に拳を作り、苛立ちを込めてぼやく千草ちゃんの迫力に気圧された。 「はぁ、なるほど……」 「本当に困るわ。金庫番と呼ばれるくらいに有能な上村くんのおかげで、ずっとクリーンな会計でいられたっていうのに、彼が抜けた穴を埋めるには、時間がかかるわけ」 「不正を見抜く目を育てるには、経験がものを言うから」 「こっちも、上村くん頼りにしていたツケになるんだけどね。成臣くんが話のわかる相手で嬉」  ドンガラガッシャーン!  それはちょうど、上條夫妻が住むマンションの玄関に近づいたときだった。あまりの異音に、ふたりで顔を見合わせながら、そろって足が止まる。 「やべぇ、はじまってるな……」 (――どうか、死人が出ませんように。じゃなきゃ俺は、殺人教唆で捕まってしまう!)
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