終焉

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「これだけたくさん咲いてる花の中で、アバズレが目ざとくあの花を見つけてさ、笑いながら手折ったんだ。俺の目の前で」 「…………」  語尾で切なげに声が掠れた瞬間、握りこぶしを作り、悔しさを滲ませた学くんを、黙ったまま見つめる。背中を丸めて体を小さくしているのに、力を込めたことでさらに体が小さくなり、圧縮された負の感情が全身から表れる。 「首を跳ねられた花が、大きな孤を描いてどこかに飛ばされるのと、苦しそうな顔した美羽の姿が重なって、すごく悔しい気持ちになった。目の前で見ているのに、俺の手をすり抜けて守ることのできなかったあのときのことを、思い出したんだ。好きな女も守れない、不出来な自分を見せつけられた感じ」 「そんなこと!」  ボロボロだった私を支えてくれたのは、すぐ傍にいた学くんだった。すべてを失い、ひとりきりだった私に差し伸べてくれた手が、どんなにありがたかったか――学くんの働きのおかげであのコを罠にハメることに成功し、傷害事件に発展させて、世間から叩かれることになった。現在の彼女は精神鑑定のため、最低でも半年間勾留される。こうなったからには、元のような生活を送ることはできないだろう。 「アバズレの気分で手折られた罪のない花を探したときは、自分の無力さをひしひしと噛みしめながら、必死になって探してさ。見つけたときは、すごく安堵したっけ。今度は美羽のことをきっちり守るんだって、気を引き締めるきっかけになった花なんだ」 「その大事な花を、私にプレゼントしてくれだんだね」  今までもらったどんな花束よりも、あの一輪のドライフラワーが嬉しくて、小瓶に入れて目のつくところに飾っていた。 「私は学くんに、なにもあげられるものがないな」  肩を落として告げたら、しゃがみ込んでいた学くんが、すっと立ち上がって振り返る。 「なにを言ってるんだか。俺はもうもらってる、美羽の気持ち」  そう言って顔を寄せて、ちゅっとキスをした。一瞬触れてから、角度を変えてもう一度触れて、名残惜しそうな顔で離れていく。私は学くんのスマホを持ったままなので、なんとなく引き留めづらかった。 「学くん……」 「なに?」  学くんがしたことで、教えてあげることが見つかり、ちょっとだけ安心してしまう。 「キスするときは、息をしていいんだよ」 「へっ?」 「ずっと息を止めていたら、その先に進むには大変じゃない?」  クスクス笑って腕を絡め、学くんの横に並びながら、愕然とした彼の顔を見上げる。持っていたスマホを、学くんの手にスムーズに返した。 「その先って、ごにょごにょ……」  返されたスマホを握りしめて、なにかを呟く学くん。顔だけじゃなく首まで真っ赤になってる姿が、私の笑いをさらに誘った。 「しょうがないな。幼なじみのお姉さんが、手取り足取り教えてあげる」 「そこは! そこは……やっぱり恋人として、教えてほしいデス」  その言葉で、あらためて幼なじみから恋人に変わったことを意識した。もう弟みたいな扱いを、学くんにしてはいけないだろう。 「学、ふつつかな恋人ですが、これからもよろしくね」  学くんの首に両腕をかけて自分に引き寄せながら、深い口づけをかわす。学くんからの愛情をたくさんもらった私の未来は、間違いなく明るいはず。これからも仲良く一緒に歩んでいけますようにと、願いを込めたのだった。 【了】 ☆最後までお読みくださりありがとうございます。次回作『純愛カタルシス』でまたお愛しましょう。皆さまに幸あれ♡
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