救済

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「この日に限って、過去の出来事を数件まとめてアップしてるんだね」  学くんに話しかけながら、最初に見せてもらった書類に指を差した。ほかの日付けの記事についても、ふたりで顔を突合せて入念にチェックしてみる。 「不思議だよな。別の日は、その日にあったことをアップしてるのに。なにが違うんだろ……」  たくさんの書類を何度も行き来させながら、再度確認している学くんを見ていて、ふとそれに気づいてしまった。 「この日……。待って、この次の日に、私は病院に行ってる!」 「あ、俺が美羽姉に逢った日ということは――」  私たちがそろって目を合わせたからこそ、この部屋でかわした会話もしっかり思い出す。 「前日の夜、良平さんに酷いことを言われながら、無理やり性行為を強要された……」 「傷ついた美羽姉に、旦那さんの浮気調査を頼まれた日――」 「もしかしてだけど、私が良平さんと肌を重ねたことを知っているから、ヤキモチを妬いた長谷川さんが、良平さんとの夜の出来事をまとめて載せたってことなのかな」 (事前に良平さんが私とヤることを見越して、写真や行動履歴をとっておくなんて、用意周到にもほどがある)  底の見えない彼女の計画性に、背筋がゾッとした。思わずおなかを両手で抱えて守りに入るくらいに、恐怖を感じた。 「旦那さん、愛人にわざわざそんなことを言うか? 今夜奥さんとヤるんだぜって。普通はそういうの隠すものじゃないのか?」  訝しげに眉根を寄せる学くんの気持ちはよくわかる。 「んー、私が長谷川さんの立場だったら、やっぱりそういうのは、あまり知りたくない情報だと思うけど……」  ぽつりぽつりと語った私に、学くんはぼさぼさの髪の毛を掻きながら、思いっきり顔をしかめた。そこから心底嫌そうな感情が滲み出ていて、私の代わりに怒っているみたいな錯覚に陥る。 「美羽姉が愛人目線で考えたなら、俺は男視点で考えてみるか。旦那さんの別の思惑、う~ん。奥さんとヤったのを知って、愛人にヤキモチを妬かせることによって、次回の行為を燃えさせる材料にする……とか?」 「なんにせよ、私たちはの常識は通用しないみたいね。不倫してる時点でおかしいし」  やっとの思いでそれぞれの考えを紡ぎ出しても、それが正解なのかわからないまま、ふたりして頭を抱えた。学くんは恋愛経験が乏しそうだし、私だってサレ妻になったのは初めてだから、不倫する側の思考なんて読めやしない。
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