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(有名商品の広告ばりに、上條課長とのことをあれだけインスタにアップしているのに、気づかないほうがバカだよね――)
浴室から聞こえるシャワーの音を聴きながら、赤ワインを口に含んだ。芳醇な香りが鼻腔をくすぐり、赤ワイン特有の渋みが舌の上で解けていく。
この赤ワインの重たさを感じる渋みのように、何度もそれを味わっていたら飽きてしまう。しかも空気に触れて酸化して風味が変わり、ただのアルコール飲料に落ちる前の、美味しいうちに飲みきらなければならない。
恋愛だってそう――相手に飽きられる前に、コチラから捨ててやらなきゃね。
「だけどこの間は、超最悪だった……」
美羽先輩の実家に行くから今夜は来ないと言った上條課長が、泥酔に近い酔い方で現れたのにはギョッとした。
「良平きゅん、どうしたの?」
『どうしたもこうしたもねぇよ! さっさと中に入れろ』
玄関で応対した私を押し退け、自分の家のように入って行く背中に、べーっと舌を出してやった。
『美羽のヤツ、母親と一緒になって、俺をバカにしやがった』
「良平きゅんかわいそー! すごーく傷ついたよねー」
まったく感情のこもらない口調で私が返事をしても、まったく気にならないらしく、上條課長はなにもないところを見ながら、親指の爪を苛立ちまかせに噛む。
悪酔いしている上に、イライラしていることもあり、簡単に宥めることができないだろうなと思いつつも、意を決して頭をなでなでしてみた。
『…………』
「よしよし。良平きゅん、少しは落ち着いた?」
かわいく見えるであろう上目遣いで、上條課長の顔を下から覗き込んだ途端に、体を抱きしめられた。
いつもなら体に触れてる手で胸をイヤラしく触ったり、お尻を揉みしだいたりするのに、ただ抱きしめるだけで、一向に動く気配がない。酔っていたら、なおさらそういうことを進んでやる彼がなにもしないことに、一抹の不安を覚えた。
『ああ、春菜は優しいな……』
「良平きゅんにだけ、春菜は優しいんだよ。だって特別なんだもん♡」
満面の笑みを浮かべながら、上條課長の胸元で頬擦りする。近寄ってるだけで酒臭さが鼻につくが、なんとか我慢した。
『春菜と結婚すればよかった。そしたらこんなにつらい思いをしなくて済んだのに』
「美羽先輩と、なにかあったのぉ?」
美羽先輩の実家で一悶着があったのは、容易に想像ついちゃうけどね。
『昨日のことで俺が頭を下げて、ちゃんと謝ってやったのに、「信じられない、バカじゃない」って怒鳴られた』
「え~っ、良平きゅん謝ったのに美羽先輩ってば、そんな酷いことを言ったの?」
『俺の顔も見たくないってさ』
「春菜だったらそんなの無理! 良平きゅんに逢えない日があるなら、寂しくて死んじゃうかもしれなぁい」
ベタすぎる泣き真似をしながら、大きな体にぎゅっと縋りついた。
『死んじゃうなんて、大袈裟だな』
上條課長が愛おしげに、私の頭を撫ではじめる。他人を慮れる行動から、少しは酔いが覚めてきたことを知る。
「ホントだよ。だからこうして会いに来てくれて、すっごくすっごく嬉しいの♡」
『春菜の顔を見ただけで癒された』
「癒されついでにヤっちゃう? 生ハメえっち」
言いながら、上條課長の唇を人差し指でちょっとだけ触れる。
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