修羅

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「コッソリ買ってあげても、結局私のお母さんからバレて、学くんは叱られたっけ」 「おかげさまで、悪いことができないタチになりました。めでたしめでたし」 「それなら学くんは、絶対に浮気なんてしないね」  寂しげに告げた口が、美味しそうにモンブランを食す。すかさず、俺のいちごのショートケーキを差し出した。 「ほら、俺のとっておきをやるから、元気出せよな」 「だって学くん、イチゴのショートケーキのイチゴは、最後までとっておくのに……」  不思議そうに首を捻りながら、俺の顔を見る美羽姉の面持ちは、信じられないといった様相だった。 「そんなゾンビみたいな顔を、目の前で見ながら、平然ととっておきを食える神経してないって。いちごのビタミンを摂取して、少しでも若返ってくれ」 「なんだか、美佐子おばさんに言われたみたい!」 「ゲッ! あんな鬼ババと一緒にしないでくれよ……」  まったくそんなつもりじゃなかったのに、結果的には似てしまうところは、血のなせる所以なのかもしれない。  めっちゃ嫌がる俺を後目に、美羽姉は嬉しそうにいちごにフォークを突き刺し、ぱくりと食べてくれた。 「あのね学くん……」 「んう? なんだ?」  いちごののっていない、見るからに質素なケーキに舌づつみを打ってる最中に、それはなされた。 「別料金で、調べてほしいことがあるの」  どんよりとした暗い口調と、目の前にあるほほ笑みを滲ませた表情がリンクしていないことにすぐに気づき、ケーキを食べる手を止める。 「別料金なんていいって。前回の調査も結局中途半端に終わってるし」 「長谷川さん、あれからインスタを更新してないのよ……」  その言葉にすぐさま自分のスマホを手に取り、お目当てのインスタを開いてみた。 「あー、ホントだな。美羽姉を痛めつけたことによって満足したから、更新も止まってるとか?」  それをしげしげと眺めたあと、美羽姉に視線を移す。やけに真剣みを帯びたまなざしとかち合って、逸らすことを許さないそれに、胸がドキッとする。 「理由を知りたいから、学くんに調べてほしい」 「美羽姉――」 「学くん、お願い!」  もうアイツと離婚してるのに、自分から関わりにいくなんてやめろと、語気を強めて言ってやりたかった。これ以上、好きな人の傷ついた姿を見たくはないのに、残念ながら俺のやることはひとつしかない。 「アバズレがどうしてインスタを更新しないのか、現在なにをどうしてるのかを含めて調べればいいんだな」  苛立ちまかせに残ったケーキを一口で平らげ、美穂おばさんが淹れた紅茶も一気飲みしてから立ちあがる。 「しょうがない、白鳥翼さまの出番ということで、早速調べてやるよ」 「ありがとう、学くん!」 「ただし、これから美羽姉が三食きちんとご飯を食べて、きちんと寝る生活を送ってるのが条件だ。それができなきゃ、情報を提供してやらないからな!」 「わかった。規則正しい食生活に徹します」  幼なじみとして、美羽姉の操作はお手のもの! 俺はそのまま、ターゲットの調査に向かったのだった。
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